最新作『無人地帯 No Man's Zone』(2012)
〜福島第一原発事故、失われゆく風景、そこに生きて来た人々〜
第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品作品
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4/27/2008

愚の骨頂…

平和の祭典の聖火ならぬ騒動の火種が、我がニッポン国長野を通過して行きました。いやまあ留学生を大量動員かける中華人民共和国大使館というのも凄いのだが、チベットに平和と自由を訴える亡命チベット人の皆さんとその支援者に、いつのまにやら中国が嫌いなだけの右翼まで入って騒動のメインを担ってるというのも、同じくらい低レベルの話で困ったもんだ。チラっとしか写りませんでしたが、4月8日のこのブログで取り上げた、ニュース23が取材していた映画『靖国』で銀座の映画館シネパトスに街宣をかけた右翼の坊やも、中国人留学生の集団に果敢に襲いかかってましたねぇ。我ながらつまらんところ見てるもんだが。

なんというか、他人様の大変な不幸を、自分たちのどーでもいいような鬱憤のはけ口に利用しないでもらいたいもんだ。

とはいえ中国人留学生の皆さんの無知と傲慢と恥知らずも、他人様の国のことながらあきれ果てる。どうもあの方たちは、中華帝国の歴史も知らないらしいし、まして民族自決権の理念(最近は孫文先生の三民主義なんて教えてないですかねぇ…)なんてまったく理解しておらず、ただ自分たちのことしか考えられず、他人からどう見えるかなんて想像も及ばないようだ。そりゃ日本の右翼も同じといえばその通りながら、まだ日本では少数でしょうし、外国に行ってまでやらんやろ、さすがに。映画『靖国』の右翼活動家相手の試写の後のディスカッションで、「外国の人に日本の神道を理解してもらえるとは最初から思ってない」とそれなりに賢そうな右翼の人が言っていて、まあ「理解してもらえるとは最初から思ってない」ってのもいくら民族宗教とはいえ説明不足過ぎるが、少なくとも他民族に強引に押し付けないだけまだマシか(もっとも、我がニッポン帝国は植民地支配した土地には押し付けましたが)。

たぶんなんの基礎知識もないところで、インターネットでいい加減な知識を仕入れて知ったフリをしてるんだろうなぁ、ちっとも思考能力も使わずに(苦笑)。まあその点では「中国嫌い」だけで長野に行ってらっしゃるプチウヨの皆さんも同じようなものなんだろうが。

中華帝国というものが歴史上どういうものなのかまったく知らないらしい…。明朝の正史には、あたかも明がチベットの宗主国であったようなことが書いてあります−−ってそれを言うなら、足利将軍だって明朝から「日本国王」に奉ぜられてますよ。日本は中国の一部ですか? 違うでしょうに。まだ足利将軍はちゃんと国書を送ってますが、チベットの側では商売とか、お坊さんが訪問しているだけで、そのお坊さんたちだって別段政治的実権があったり、ダライ・ラマの命令で、なんてことは一切なく、ただ自分の意思で中国旅行をしただけ。それを明朝が格好がつかないからダライ・ラマの公式の使者であるかのように公式記録に書いただけ。だいたい、大昔から中華帝国は外交使節が来たら、実態は対等の外交関係で通商を行うだけでも、自分たちの側では「朝貢」ということにして、属国であるかのように自分たちの側では装う、という見栄っ張りの歴史をお持ちなんですけどねぇ。学校で教わらなかったのかな? 清朝の時代には実質保護領みたいな関係だったが、それは愛親覚羅皇帝一族がラマ教の檀家だからってだけで、檀家が宗教上のお師匠さんをお守りするという関係。チベットとしてはダライ・ラマを元首とする宗教政府が続いていても、中国と喧嘩してもしょうがないから中国側が北京や南京であたかも皇帝の支配領域であるかのように記録しているのには目をつぶっていたし、北京や南京でもチベットが実はぜんぜん属国でも領土でもないのを百も承知で、ただタテマエではそう装ってたってだけの話。

一見「大国」という自信をつけているように見えて、実のところかつての「帝国」の幻想を非常に薄っぺらに自己内で再生し、その幻想以外につながっている理由を見失っている超大国。彼らにとってオリンピックは、幻想の自己内確認の手段にしかなっていないし、だからこそあそこまでヒステリックになるのだろう。だがどんなにヒステリックになったところで、中華帝国という幻想自体が、そもそもが広大な国土のなかで限られた交通・通信手段、コミュニケーションが限定されていたことによって成立していたものであって、現代の高度情報通信社会では意図的に盲目になる以外に幻想としてすら成り立たない。だからこそ無理にでも周縁部であるチベットなど少数民族地域を実効支配しようとしているのだろうが、実効支配した瞬間にそれがリアリティの問題、他者とどう関わるかの問題になって、その現実を前にしたときに、幻想なぞは打ち壊されるものでしかない。だから必死に逃避するしかない。そもそも中華帝国のオブセッションである「中央集権」自体が、あの国土の広さでは、リアリティの問題として無理がありすぎたのだ。リアルな中華帝国の歴史とは、帝国の統一の歴史であるよりは、せいぜい皇帝にして一代か二代の最盛期だけ強引に中央集権体制を作り、あとは何世紀かかけて腐敗し崩壊しバラバラになっていくという、そうとうに虚しい繰り返しでしかない。ちなみに漢民族の皇帝でそれに一応は成功したのは唐の玄宗くらいしかおらず、元や清といった異民族王朝の方がまだちゃんと機能していたというのもまた、「中華帝国」の厳しいリアリティ。しかも清はまだほぼ漢民族化/中華化した王朝で傅義だとか満州語もできなかったそうで実態もまあ「中華帝国」だが、史上最強帝国のひとつモンゴルの大ハーン帝国において、「元」「大元」というのは中国人相手にそう名乗っただけの一行政地域に過ぎません。

だいたい、仮に本当に中国の属国であったとしても、その少数民族が民族としての独自性をちゃんと維持していれば、異なった民族なんですってば。単に現在の国際社会の理念がそうなっているだけでなく、そもそも他者は他者でしかない。どう逆立ちさせようがチベット人は「中国人」にはなりようがないのだ。いっそ「中国はモンゴルの一部です」とか「中国は満州の一部です」とかいって、中華人民共和国の独立そのものを否定してやろうか、まったく。そういう理屈に過ぎんじゃない、「チベットは中国の一部」っていうときのあなた方の根拠は。だいたい公平性とか善悪の普遍性とかいうことが、まったく頭から抜け落ちてるとしか思えん。だが抜け落ちていても当たり前といえば当たり前−−過度に自己中心的で他者について盲目にならなければ、かの国をつなぎとめている幻想はそもそも維持できないものなのだから。

ちなみに中国を支配した帝国がそれなりの統治なり支配なり軍事的勢力範囲を実際にチベットにまで及ぼしたのは、モンゴル帝国(ただしその行政区分上、チベットは「元」ではありません)と清朝と、現在の中華人民共和国だけだ。中華民国にいたっては、だいたい実質上国内統一すらできていないし、四川省、青海省あたりの国境紛争のなかでパンチェン・ラマ10世の指名に無理矢理介入しただけ。ダライ・ラマ14世を中華民国が指名・了承したという中華民国のデマ報道を本気で信じて「チベットは中国の一部」だと主張するんだから…。なんか凄い歴史教育をしてるんだなぁ、中華人民共和国って。パンチェン・ラマ11世誘拐行方不明事件に至っては、ダライ・ラマが転生児童を指名したことを「ダライ・ラマにそんな権限はない」とか主張するんですから…。あのぉ、阿弥陀如来様の化身である偉いお坊さんの生まれ変わり先を捜すのは宗教的な能力の問題であって、「権限」の問題じゃないでしょ…。それなりのお告げというか宗教的な予兆と判断されることに基づいて、「仏様のお導き」で転生した先の子どもを捜すという教義であって、そもそも無神論の共産党、世俗の人間の組織がそんなことやるのがおかしいじゃない。なんでそんな当たり前のことに疑問すら抱かないんだろうか? いったいなにを勉強してるんだ、そんな基礎的な思考力もなく。それに活仏の転生児童とはいえ6歳の子どもを家族共々拉致するって、そういうむちゃくちゃをやる政府になんの疑問も抱かないのかなぁ。

あげくの果てに「ダライ・ラマの支配下でチベットには奴隷がいた」んだそうです。これは恐らく、英訳とかなんとかが入り込んで誤訳の連鎖で完全に混乱してるんだろうなぁ…。昔、中華人民共和国がチベットに侵攻したときにプロパガンダで言ってたのは「農奴」がいたってことね。で、「農奴」ってのは普通の歴史および経済用語では「小作農」、英語でいえばpeasantを、わが日本の共産主義者がマルクシズムっぽくかっこよく訳した言葉が、中国共産党に輸入されてるだけ。どっかのバカが昔の共産党のプロパガンダを英訳したときに「奴隷」の「奴」だから「slave」と誤訳して、それが中国人留学生の脳内妄想のなかで飛び交ってるのか、それとも「農奴」という用語すら知らんのか? マルクス主義の用語すらちゃんと知らないって、中国共産党はどういう教育をしてるんだ? だいたいチベットには確かに小作と地主の制度はありましたけど、自作農が余った土地を土地をもたない人に貸すというような小作が多く(現ダライ・ラマの実家とか)で、中国の地主制度の本格的な農奴搾取よりはかなり穏やか。しかも遊牧民の方が多かったんだから。

んでもって、1940年代までのチベットに近代化・民主化の改革が必要だったかどうかと、それが中国共産党による押しつけであるべきかどうかは、まったく別次元の問題。ダライ・ラマの政府は13世の頃から近代化改革に着手してますがな−−13世のときは成功はしてなくてむしろ内政の混乱も招いたみたいだけど。なんというか、満州に5族共和の王道楽土を作ろうとしたニッポん帝国主義とほとんどおなじ理屈じゃないか。

なんで「愛国」を叫ぶ人ってどこの国でも無知で思考能力がないんだろ? だいたい長野まで聖火の応援に来るのは分かるけど、そこで自分の国の国旗を振り回すか、普通? 五輪の旗とか、北京オリンピックのシンボルマークの旗でも振るなら分かるけど。いったいこの人たちはなんのために外国に留学してるんだろ?

いやなにが嫌だと言って、東アジア文明特有の見栄と建前の文化というか、名目上はそういうことにしておくけど本当はどうなのか暗黙の了解、阿吽の呼吸みたいな「言わずもがな」でお互いの顔を立てる伝統がいいのか悪いのかはともかく、そういう文化的伝統があることもまったく知らず、従ってその意味するところもまったく理解できない若者が増殖していて、そういうのに限って「我が国の独自性」とか主張してるんだから滑稽すぎます。ただ「中華」とその昔「中華」が「吐藩」とか呼んでた「中華」から見れば周辺・辺境に当たる地域およびそこを故郷とする民族との関係の場合、この無知無理解・民族的根無し草の絶望的なアイデンティティ希求の滑稽さが、その単純アタマと無理解と無知のせいでとんでもない悲劇と破滅に向かっているのが、なんとも…。

時事通信の報道だと、こんな動きまで出ているらしい。

-----【時事通信、4月26日】-------
【北京26日時事】中国チベット自治区ラサの旅行社によると、6月に同自治区内で行われる北京五輪の聖火リレーを参観するツアーが人気を呼んでいる。旅行社が中国国旗やそろいのTシャツも用意。3月の暴動の影響が懸念されるラサの聖火リレーだが、当日は成功を支援する「赤い旋風」が巻き起こりそうだ。
 聖火リレーは6月19日に同自治区の山南地区を、20~21日にラサを通過する予定。これらのルートでリレーを参観する団体旅行を扱う西蔵中国青年旅行社は、注文があればリレー応援に必要な国旗や衣服のほか、横断幕なども提供。既に国内の旅行客から多数の参加申し込みを受けているという。
 一方、聖火到着に合わせラサの観光名所ポタラ宮では、旅行社などにより数万人規模の愛国集会が計画されているもようだ。

…喧嘩売っているというか、自爆行為にしか思えないのだが…。もう、これはどうなるんだろう? アメリカの大学でチベット支援の学生運動に襲いかかろうとした中国人留学生を、やはり中国人の女性留学生が「冷静に話し合いましょう」と呼びかけただけで、「裏切り者」と中傷され、実家がとんでもないことになっているというし。政府がやっとダライ・ラマの代理人との直接対話を始めると公表したが、自分たちが煽った「愛国心」で今度は政府がおっかなびっくり、対話を始めたとたん「腑抜け」とか国内の突き上げが怖くなってる感じもする。12億人の未来は本当に大丈夫なんだろうか。冗談でもなんでもまく、このまま人類史上最大のマッチョ衆愚に堕落するつもりなんだろうか?

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