最新作『無人地帯 No Man's Zone』(2012)
〜福島第一原発事故、失われゆく風景、そこに生きて来た人々〜
第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品作品

3/23/2018

麻生太郎「俺は知らねーよ、お前ら(安倍・他)が俺に言わずにやったことじゃねーか」




麻生太郎財務大臣がついに、国会の閣僚席でニヤニヤ腕を組むのを止めた。

それはそうだろう、官僚が組織的に公文書を改竄という異常事態が、それも「官僚の中の官僚」「官庁の中の官庁」である麻生氏の所轄する財務省で起こっていたのだ。普通なら、これが大臣の引責辞任にならずになにが引責辞任に該当するのか、というレベルの不祥事だし、なんといっても自分だって辞任できた方が楽だ。

質問の集中砲火を浴びせられたって、麻生さんは答えるだけの情報を持っていない…というか、麻生さんにだってこの改竄事件がなぜ起きたくらいかまではぼんやりは分かっているだろうが、詳細はなにも知らない自分に質問されても困るのだ。

もし本当に財務省の内部だけで、いわば単独犯行で起こった財務省単体の不祥事ならば、それを財務省が調査するなんてナンセスが本来あり得ないことも麻生さんは百も承知だろう。なのに自分が真相追及の最高責任者にされてしまったのもおもしろくない。

いや麻生さんにしてみれば、なにがおもしろくないと言って、このスキャンダルは麻生さんにはなんの関係もない、安倍首相とその周囲が勝手に盛り上がっていた「安倍晋三記念小学校」問題だ。

麻生さん本人としては、むしろ慎重に関わることを避けて来たつもりだったのがこの案件だろう。だから意識的に口も出さなかったことがなんと裏目に出て、逆に自分が追いつめられてしまっているのだ。

これがおもしろいわけがない。かと言って自分の知っている真相を口にするわけにもいかない。

恐らく麻生さんは内幕の詳細を本当になにも知らないだろう。もちろん、「安倍晋三記念小学校」くらいは知っていたし、総理夫人の昭恵氏が籠池とかいう珍しい名字の理事長夫婦と親しいことも耳にしてはいただろうし、その籠池氏が旧国有地を校舎予定地にしてしていたことと、安倍首相とその妻が、その国有地を籠池夫妻にあげたがっていることまでは知っていただろう。

だが麻生さんのこのスキャンダルへの関係・関わりは、恐らくここ止まりだ。

実際、改竄された決裁書で削除されていた記述を見ても、近畿財務局と理財局が「政治の意向」で異例で不正な判断を強要されて来たことが伺えるが、「忖度」にせよ「無言の圧力」にせよ、大臣に配慮したと匂わせる記述はない。

せいぜい日本会議国会議員懇談会の重要メンバーのひとりで名前が出ているだけで、この極右改憲派についての麻生さんのスタンスは「気持ちは分かるがあまり騒ぐな」というなだめ役のような関係性だ。そこで彼らにもっとも有効な「少しおとなしくした方が」アドバイスとして言ったのが、あまりに世間の常識とかけ離れた内容だったので大失言騒動になったこともあった。


例の「ナチスに学べ」発言だ。あの問題発言はよく聞けば、要するに「あまり騒ぐな」という意味にしかなっていない。そしてあの集団相手ならもっとも説得力のある言い方は確かに「ナチスに学べ」であり、ナチスに学ぶことだったら「日本会議」のカルト的コア成員も喜んで従うだろう。 
もちろん非常識過ぎる発言だった。そんなことは麻生さんだって分かっていただろう。 
だがどうすればいい?常識が通用する相手じゃないのだ。 


麻生さんにしてみれば、最初から安倍晋三氏にこそ「あまり騒ぐな」「目こぼししてやってるんだから目立つなよ」「少しおとなしくした方が」「俺の顔を立ててゴリ押しはするなよ」と、最初にちゃんと諌めておけば良かった、と今では深く後悔しているのではないか。

だから麻生さんはまったくおもしろくない。「そんなこたぁねーだろ」と自分だって思っていても、なんとかこれは財務省の一部局である理財局だけの不祥事で、国税庁長官を辞任させたばかりの当時の理財局長・佐川氏の保身が動機だと、いわば佐川=理財局単独犯行説を言い続けなければいけないのが、内閣の一員として安倍総理を支える麻生サンの立場なのだ。

野党にバカにされると自分でも分かっている答弁を続けなければならないのも、麻生さんにはもちろんおもしろくない。

本当にそのストーリー通り、財務官僚が大臣の目を盗んでこんな国民への背信行為をやっていたのらならば、普通の理屈では大臣の管理責任もまた重大で、省内のガバナンスをまったく維持できていなかった以上は能力の問題で辞任を表明するのが筋だ。

もちろん麻生サンだってそんなことはご存知だし、本当に大臣の与り知らぬところで部下が公文書改竄というか偽造に手を染めていて、それが局長とはいえたかが一官僚の答弁との辻褄合わせの保身のため、財務省が組織防衛で大臣たる自分まで騙したとなれば、騙され裏切られた不信感だってある。大臣を辞めたくなるのが普通だ。

こんな矛盾した態度を取らされているのだから麻生サンがおもしろいわけがないのだ。もうウンザリだし、世論の「辞めろ」コールを待つまでもなく辞めたっていいくらいだろう。

これまで任侠な親分キャラを売りにして来た麻生サンは、根っこの部分は気配り細やかな “人情派” でもある。なのに部下に責任を押し付けて保身を謀る卑怯者のかっこうになってしまっているのも、最悪におもしろくない。

しかし今自分が辞めるわけにはいかないのだ。本音では「省内の管理不行き届きの責任を取る」をいいわけに辞表を出して、泥船な政権に後ろ足で砂をかけて去り、有力派閥の領袖として誰かポスト安倍候補の支援に廻ったっていいはずが、それも出来ない。

麻生さんにしてみれば、党内で公然と安倍批判の声が上がっているのも「お前らなんてのんきなんだ」と呆れるだろうし、そこがまたおもしろくないのだろう。自分だって半分くらいは同じことを言いたい気持ちもあるだろうから、ますますおもしろくないのである。

自分がかつて総理になった頃までの、普通にあったレベルの自民党内の不祥事なら、「◯◯おろし」の風が吹き、党内政権交替で自民党自体の支持は維持できた。だが今回はそうはいかない。

今回の異次元なことの重大さを、もしかしたら麻生さんが一番分かっているのかも知れない。なにしろ不良官僚でもなんでもないない、ごく標準的に真面目な霞ヶ関人というよりも、その中でもとりわけ勤勉でハイパー有能なスーパー・エリート層に属する、霞ヶ関の価値観を決定づけて来たような官僚たちが、霞ヶ関伝統の知恵の巧妙な逃げのテクニック(噓をつかずに事実上の噓をつく隠蔽工作だとか)を駆使することもできない思考停止に追い込まれて、公文書改竄という罪の大きさが前代未聞であるだけでなく、頭の悪さ無能さも超ど級の大不祥事を引き起こしてしまったのだ。

しかし麻生さんがなによりもおもしろくないのは、これが「大臣の監督不行き届き」ではおよそ済まないことを麻生さんが誰よりも分かっているところだろう。

このスキャンダルの真相を、大臣の自分はよく知らないが、少なくとも内閣と官邸への忠誠心か、どう考えたって官邸の指示命令で起こったことなのは確かだ。つまりは政治が、それも自民党が、官僚に犯罪行為を強要していたというのが真相であるところまでは確実だ。自分は大臣なのに、官邸が自分の部下にそんな違法行為をやらせるのを放置してしまっていたことになる。

とはいえこの内閣では、麻生さんの立場はまだ比較的マシな方だ。森友学園をめぐる不透明な国有地払い下げも、その隠蔽工作で本来なら有能な部下の佐川さんがあり得ない答弁で馬脚を晒したのも、理財局で決裁書を改竄なんて最悪に頭の悪い不正が行われたのも、麻生さんは巻き添えは御免だと自分から関わらなかったのだろう。

安倍政権では、大臣の与り知らぬところで官邸や内閣府や党内の安倍熱烈支持議員が官僚に直接な圧力をかけ、後で知った大臣が尻拭いをやらされる事態が相次いでいる。直近では自民文科部会のトップ2が文科省に、名古屋市の中学校への圧力というか恫喝メールを送らせていたのも、林文科大臣は名古屋市教育委員会が暴露するまで何も知らなかった。

だからって自分がお目こぼししてやったら官邸がここまで財務省の内部をぐちゃぐちゃにしていたことが、麻生さんにとっておもしろいわけがない。こんなことがバレてしまえば、吹っ飛ぶのは安倍内閣だけではない。自民党そのものが失墜し、日本の政治そのものが崩壊しかねない。

だいたい官邸に限らず、官僚を思考停止に追い込み違法行為をやらせるのが自分たちの安倍氏への忠誠だと思っているアホ議員が「安倍チルドレン」を中心に増殖している。その「魔の三回生」たちが安倍首相だけでなく自分の支持し慕ってくれているらしいからますます厄介で、自分からは文句も言えない。

しかも麻生さんから見ればそんな彼らは、自民党の将来を考えればちょっと人前には出せない低レベル、なのに…今の自分が言えるのは、せいぜいが

「少なくとも、その種のレベルの低い質問というのはいかがなものかというのは、軽蔑はします」

くらいまでなのだ。

麻生さん個人としても、まったくおもしろくない。財務省で起きた公文書改竄問題の国会集中審議には大臣の自分が出席しなければならず、財務大臣としての本来のお仕事であるG20財政担当大臣・中央銀行総裁会議への出席も見送らされた。「俺の仕事はなんだと思ってるんだ」と、苦虫を10匹くらい潰したような顔をしていても当然だろう。

「いったいなにやってるんだよバカヤロウ、とっとと認めりゃよかったじゃないか。どうせ逃げられねえんだし」というのが麻生さんの本音だったとしてもおかしくない。

なにしろ改竄が朝日新聞にスクープされたのは3月2日、3月6日には国交省から改竄の決定的な証拠が官邸に報告されていた。この時点で改竄を官邸が公表しておけば、集中審議もとっくに済ませてG20に出張も出来たはずなのに、財務省が改竄を認める意向が報じられたのは10日土曜の夜、正式な発表は週明けの12日だった。

さらに集中審議や佐川前理財局長の国会招致が与野党の駆け引きで、無駄にダラダラ引き延ばされて、大事なG20行きが消えてしまった。麻生さんにとってこれがおもしろい訳がない。

だいたい第二次安倍内閣では、たいして外交が出来るわけがない総理ばかりが外遊し、バラ撒きと媚び売りに徹しては形だけの「支持」の言質を偽装でもらってくるだけの首脳会談ばかりを繰り返して来た。麻生さんは外務大臣経験者でもあり、総理と違って英語もちゃんと喋れる。国際会議でちょっと外国首脳を捕まえての立ち話で、外務省や官僚が前例や形式にこだわって抵抗し妨害している交渉を、首脳どうしで詰めてしまえる能力はある(少なくとも麻生さんにはその自信がある・実際に出来たていたかどうかはともかく)のだから、自分が行かないことがどれだけ大問題なのかを思えば、腹立たしい限りだろう。

それでも自分より能力も人格も知能も劣る総理大臣を、麻生さんは弟のようにかわいがり、自分が率先して下手に出て支えて来た。

なぜ麻生さんはここまで安倍首相にやさしいのだろう?こういう仮説がとりあえず思いつく。 
自民党の組織票は高齢化している。もっと若い世代の支持を得なければと、「経済なんざマンガでじゅうぶん勉強できるんだよ」とか、「外交? 外交のいちばんの教科書は『ゴルゴ13』だ」とか、保守的というよりは勉強も日教組も嫌いな若い層に、自民支持層を広げるパフォーマンスも頑張って来たのが麻生さんだ。 
だがどうも、若い自民党支持層は、自分よりも安倍晋三氏の方をより熱烈に支持しているらしい。ならば自民党と日本の保守政治の未来のためには安倍氏を盛り立て、支えなければいけない、と麻生さんは考えて来たのではないか? 
いや、あるいは、麻生さん個人は意外と「人情派」で知られている。野党時代にビートたけしの政治バラエティに2人で出演したことがあるが、その時も麻生さんは甲斐甲斐しいまでの細やかな気配りで、安倍氏が変なことを言ったり変な態度を取るのをうまく中和してガードしたりサポートしてあげたりしていた。「俺が目を離したらこいつはかわいそうだ」という意識もどこかにあるのかも知れない。 
ちなみに麻生さんのゴルフの腕はかなりのものだそうだが、しばしば相手の顔を立てて勝ちすぎないようにもするらしい。安倍氏がどんなにゴルフ好きでももの凄くヘタなことは、恐らくそう気付いてないのは安倍氏本人くらいだろう。


「安倍晋三記念小学校」で小学生に教育勅語を暗唱させるのは、あまりに馬鹿げた夢で、公になれば安倍氏が支持を失い、国際的にも白眼視され、とくに対米関係がメチャクチャになる。

だが安倍氏がそう言ったところで聞く人間ではないのも麻生さんは承知していただろう。それなら評価額で10億程度の国有地の問題だし、その程度で済むなら安倍氏が好き勝手やるのは見て見ぬフリで大目に見てやろう、というくらいの心情だったのかも知れない。

もちろん、自分は関わるつもりはまったくなかったのが麻生さんだ。

そして現にそうして来たはずだ。

「俺は知らねーよ。まあそんなにやりたいなら勝手にやんな」が麻生さんの最初からの立場で、まさかここまでのメチャクチャが横行するとは、さすがの麻生さんにとっても想定の範囲外だったのではないか?

普通に考えれば、当時の「安倍晋三記念小学校」計画の最大のネックは大阪府の認可を得ることだった。学校用地がなくては政治的な教育内容のヤバさ以前に、経営基盤の不安定さで大阪府の役人からハネられる(あるいは政治性に触れるのを避けてそっちで潰す)のも目に見えていた。ならば認可が通るようにと国有地を優先的に買わせてやるくらいなら、まあ目をつぶっておこう、要は「俺はよく知らないが、俺の目に入らないところでおとなしく、目立たない程度でやってくれよ。そのぶんには目をつぶっておいてやるから」が、麻生さんの認識だったのではないか?

先頃ついに辞任に追い込まれた佐川前国税庁長官を、麻生さんが「適材適所」と言い続けて来たのも、噓ではない。あんな顔をしながら麻生さんは部下の官僚の言うことはよく聞く人だ。そして実際、佐川さんが国税畑のホープとして大蔵省・財務省の出世コースを歩んで来た税のエキスパートであることは財務省内では共有される評価だったはずだ。

そんな佐川さんが理財局長になったのは、前任者がまだ退官していない国税庁長官の座が空くまでの待機ポストでしかなく、めでたく就任できれば国税庁長官に必要な知見・経験・実績からして、佐川さんは確かに適材適所だった。麻生さんも省内からそういう評判や評価は聞いていたはずだ。

だが気がつけば、その佐川氏はまったく畑違いの国有地売却の、しかもほとんどが前任者の迫田氏の決定・決裁で、自分もよく事情を知らなかった取引について(森友学園との最終契約は佐川氏の就任直後だ)、国会で集中砲火を浴びる身になり、そして潰された。今や総理が「安倍晋三記念小学校」の用地のために欲しがっていた国有地なのに、安倍政権はそのすべてを、たかが佐川さん1人の責任に押し付けて逃げ切る算段なのだ。

これが麻生さんにとっておもしろいわけがない。

麻生さんの気持ちは分からないではない。だがこれとて、醒めた国民目線からみれば、麻生さんの自業自得だ。すべて麻生さんが安倍晋三を甘やかして来たのが悪い。安倍晋三を止められるのは麻生さんしかいないのだから。