この人には利害の計算という政治家にとって必要不可欠な判断がまったく出来ないようだ。そしてそれ以前に、学習能力というものがないのかも知れない。
最初に首相だった時には、慰安婦問題に関して国会答弁で河野談話見直しを口走り、ブッシュ米大統領(当時)に怒られて慌てて撤回した。靖国参拝も断念せざるを得なかった。それでも最初の安倍政権は、本人の病気ということになっているが要は病気を口実に辞任を迫られ、あっけなく短期政権に終わった。
小泉純一郎の郵政民営化大花火の遺産である圧倒多数与党の議席をもってしても、安倍、福田、麻生とどんどん自民党の政権基盤は弱体化し、2009年の政権交代に至ったわけである。
今度はその民主党(霞ヶ関傀儡)政権の野田が、オバマのアメリカに無視されて辞任を迫られ、玉砕解散に至ったわけだが。
今回は自分が党首の選挙で、それも二度も(衆院、参院両方で)大勝した。今や衆参両院ともに圧倒多数で、「オレは小泉を抜いた」と妙な自信をつけているのかも知れない。それでも第二次安倍政権でも河野談話を見直すとか言ってみたり、村山談話を「そのまま継承しているわけではない」と発言してみては、批判を受けると一転撤回するしかなかった。(メディアはあまり報じないことだが)アメリカの、今度は民主党のリベラル派だから歴史問題には遥かに厳しいオバマ政権が怒るので、やはり見送りになったのは、最初から当然の展開である。
むしろ霞ヶ関は、この総理大臣が極右の差別主義者であり、日本国内自体に露骨な中国と韓国への差別意識に満ちた嫌悪が蔓延しつつあることを隠すのに必死だ。
国連総会では安倍をなんとか説得して、核廃絶まで含めてかなり踏み込んだ平和主義や、女性の権利尊重の演説までやらせた(これも日本のメディアはあまり報じない)。
なのに靖国神社に行っちゃうんですねえ、この人。後先も余波も、過去の経験から当然想定出来るリスクも、なにも考えずに。
メディアは「中国が」「韓国が」とばかり騒ぐが、なぜ「(同盟国であるはずの)アメリカが」を必死で隠すのだろう?これもメディアは隠そうとしているが、尖閣諸島問題でも中国の防空識別圏の問題でも、米国は形だけは同盟国の体裁は保つものの「これは元々日本が引き起こした対立だ」と認識しているから、いっこうに味方する気配はない。
安倍首相はバイデン副大統領と「撤回を要求する」という共同声明を出そうとして、あっさり断られている。バイデン氏は中国でも習近平主席とは、実はその話はほとんどしていない。形だけ懸念を表明しつつ、「日本と話し合って欲しい」で逃げた。
中国としては「うちは出せるカードは全部出しても日本は引きこもっているだけだ。日本はアメリカの属国のつもりなんだから、いい加減アメリカがなんとかしてくれないか?」が本音なので、それを言われたくないバイデンはなるべく早く別の話題に移ったわけだろう。
バイデンが「とにかく日本と話してくれ、日本にも話すように言って来た」と言うのだし、中国外務省はさっそく「防空識別圏に関して関係各国と話し合う準備は出来ている」と声明を出し、しかしそれでも日本はまたもや、ただ黙り込んで自国内に引きこもったままで、「安重根は犯罪者だ」とかワケの分からないことを叫んでいる。
安倍チャンの方でもバイデンさんに、日中間で危機管理を話し合う機会を設けるよう要求されているのだけどねえ…。
そこへ今度は、毛沢東の生誕120周年の誕生日にぶつけたのかどうかは知らないが、昨日安倍晋三総理大臣はいきなり靖国神社に参拝した。そして「中国、韓国の人々を傷つけるつもりはありません」のだそうである。
いや「つもり」って…子供じゃないんだから。
いやこれが、「私的参拝」で「英霊を」が目的ならこっそり静かに行けよ、なにマスコミに声かけて御霊屋上空にヘリまで飛ばして生中継なんてさせてるの?「中国や韓国を傷つけるつもりはない」って嘘ばっか、わざわざショーアップして刺激しようとしているとしか思えない。
いやそもそも、「傷つける」とかそういう問題では本来ないのだが、安倍首相は靖国参拝をやれば相手国を「傷つけられる」と思い込んでいるから、そんなことを言うのだろう(そうでなければ、そんなヘンな言葉思いつきませんよ)。
「上から目線」というのはイヤな言葉、あまり正しくない日本語ではあるが、自分がやることで相手を傷つけられると思い込む、この安倍氏らのまるで小学生のいじめっ子みたいな態度には、ピッタリの形容だと言わざるを得ない。
いや安倍さん達が勝手に、自分たちの内輪だけで、そう思い込んでいるだけなんですけどね…。
「私的参拝」をここまでショーアップするのは、これで中国や韓国を「傷つけられる」、尖閣諸島問題では完全に行き詰まってダンマリを決め込んで国内に引きこもるしかない、韓国相手ではAPEC会議では安倍自ら及び腰で自らパク・クネ大統領に握手を求めて余裕の対応をされ、日韓外相会談では岸田外相が韓国側になんの反論も出来ず引き下がるだけ、という外交的連敗のリベンジでもしているつもりなのだろう。
だが中国と韓国は別に感情的に「傷つく」のではないし、今までだって「私たちは傷ついた弱者なんだから配慮しろ」と言って来たのでもなく、今ではアメリカも含めて、この事態を、日本側が勘違いしているのよりも遥かに深刻に受け止めている。
日本がこのまま暴走を続け、尖閣諸島や竹島で武力衝突、日米同盟があるものだからアメリカが中国との武力対決に巻き込まれる、なんていう極端な事態ですら、もはや想定に入れているのだ。
だからバイデンの東アジア歴訪は、日本にアメリカが巻き込まれないようひたすら慎重だったのだし。
まただからこそ習近平の方が、防空識別圏問題をわざわざ作ってアメリカを巻き込もうとした(アメリカが日本を押さえてくれることを期待)のであり、だが共和党系のアーミテージらエセ親日派とは違って日本を属国とはみなさない、独立国として最低限の尊重は守りたいし、安倍晋三の狂気としか思えない行動に巻き込まれたくもないオバマ政権は、困惑しつつ「とにかく日本と話し合ってくれ」で話を終えているのである。
「靖国神社の参拝は、いわゆる戦犯を崇拝する行為と、誤解に基づく批判がある」とのんきなことを言っている安倍チャンたちは、つくづくなにも分かっていない。靖国神社を参拝することは、そこにA級戦犯が合祀されている以上、戦前戦中の軍国主義と戦争犯罪、侵略戦争を日本政府が肯定したという政治的ジェスチャーにしか見えないのだ。
いや現に安倍チャンや自民党右派だって、それを肯定したくて「靖国に行きたい〜」と叫び続け、「従軍慰安婦なんてでっち上げだ」「日韓併合は朝鮮が望んだんだ」等のねつ造した虚構の歴史観を振りまいているのだが、安倍チャンたちの欲望が単に「ボクたち悪くないモン!日本だけが悪い悪いなんて言われたら、ボクたち傷ついちゃうモン!」と言いたいだけだとしても、他国からはそうは見えないのだ。
いやだって、そんな子供っぽい話で国家の既存の方針や条約に書かれた約束を反古にしたり、国の行く末を危うくするような大騒ぎを始めるなんて、大人の政治家なら逆に誰も考えません。
サンフランシスコ講和条約でも、日韓基本条約でも、日中友好条約でも、日本は軍国主義と戦争犯罪、侵略戦争を否定する、つまりは「二度と繰り返さない」を確約することで、独立や国交を回復しているのである。靖国を参拝する、イコールA級戦犯を崇拝する、つまり東京裁判の判決を否定することは、即イコール、「二度と繰り返さない」という約束を反古にする意味しか、他国・他者から見れば持ち得ないのだ。
「そんな馬鹿な」と日本人には思える。
だがハタ目には、今日本外交がやっていることは、そんな究極の狂気の沙汰すら想定しなければならないほど、既に狂気としか見えない領域に足を踏み入れているのだ。
なにせ改憲だって話題になっている、それが日本の再武装を可能にする改憲だから、国連事務総長すら警戒しているのですよ?
そんなことも分からず「傷つけるつもりはない」なるピンボケなコメントは、中国韓国の外交当局は目を白黒させるかズッコケるだけならまだいい。意味や意図がまったく分からないだけに、「こいつ本当にアブナいんじゃないか?」とますます警戒する。
「今の日本は、日本の総理大臣は本当に狂っているのではないか?本気で軍国主義を復活させたいのではないか?」という疑念は、ここまで外交的に意味不明な言動を繰り返して来た今では、想定の範囲内に入れざるを得ないのだ。
なによりも尖閣諸島は実効支配している領土である。その実際に領有している側がわざわざそれを外交問題にするというだけでも奇妙な話であり、前首相の恩家宝は戸惑いながらも懸命に、中国側には領土的野心がないこと、日本を友好国とみなしていることを示そうとした。菅直人首相が自分で潰したメンツをわざわざ立ててあげるように奔走し、震災直後には福島県にまで乗り込み…。それでも野田首相がわざわざ尖閣諸島問題を再燃させたのには、さすがに匙を投げ、現実的な判断として政権世代交代に向けて対日抗議デモを許して国内引き締めを計った(まあそこは大人の政治家だから、したたかにちゃっかり利用。転んでもタダでは起きない)。
習近平新主席は、安倍が野田以上の強硬姿勢に出ることも計算に入れながら、公明党の山口書記長が訪中すればアポなしでも会談に応じて安倍の親書を受け取り、本来なら公的な場では禁句であるはずの「棚上げ」の約束(中国側に不利な密約を、周恩来からあえて田中角栄に提案したものである)を公表し、田中角栄の側近であった野中広務に確認までしてもらった。つまり、中国は公式には尖閣諸島を自国領とみなして来たが実質は日本の実効支配を認めて来たし、その方針を変えるつもりはないのだから、領土問題で二国が争う必要はないはずだ、と繰り返したのである。
これを無視するというのは、さすがにあらゆる外交常識であり得ないことだ。なにしろ日本はなにも損をしない(なにも得もしないが、元から実効支配している領土なんだから、最初からこれ以上得られるものはない)。
日本側は安倍に批判的な一部の世論さえも含め、ここがまったく分かっていないようだが、中国側が関係改善に向けてさんざんサインを送っているのを、日本政府は外交チャンネルでまったく無視したままなのである。
やっていることと言ったら国内向けの官邸記者会見などで国内向けにしか通用しない強気のポーズを繰り返し、それを記者クラブを通じて官邸と癒着した大手メディアがひたすら国内の内輪のみで増幅させているだけだ。そしてついには、やはり日本国内に引きこもったまま靖国に参拝し、「傷つけるつもりはない」である。
なんなんだろう、この100mくらい相手から離れたところでシャドウボクシングをやりながら「怖くないぞ!お前なんか怖くないぞ!」と叫んでいるみたいな珍妙さは?
これでは何がやりたいのか、まったくわけが分からない。
いやちょっと歴史を勉強していれば、「大本営発表」で勝った勝ったと繰り返し、負けている戦争を2年も3年も引き延ばして国家を滅亡の淵まで追いつめた第二次大戦中の日本と、ほぼそっくりにすら見える。
そんな日本に、米国も困惑している。
オバマ政権の方針は、最初から日米安保を日本をアメリカの属国とみなす同盟ではなく、対等な独立国どうしの正常な同盟関係としてみなすことだった(属国に対する宗主国の責任なんて負いたくない、ということでもある)。日本のニュースではなぜか「同盟」を優先して訳しているが、allianceと言った場合それが軍事同盟とは限らない、単なる二国間関係のことを指す用語でもあるし、ルース前大使や、先頃就任したケネディ大使がこの語を使うときには、たいがい注意深くfiriendship andと枕詞をつけるか、場合によってはfriendshipとだけ言っている。
オバマ政権にとっては、日米同盟を元に日本をアメリカの属国とみなしてきたアーミテージ氏であるとかケヴィン・メア氏であるとかの共和党系の、日米安保利権で食って来てもいる勢力は邪魔であり、排除したい存在だ。
それはオバマがブッシュの失敗を克服する新しい世界秩序を目指しているからでもあり、より具体的には軍事費の膨張を押さえ、出来れば削減して、財政規律を取り戻し、自らの公約である社会保障と社会秩序の回復に予算をまわしたいからであり、ブッシュ政権下で破綻しかけたアメリカ経済の回復のためにも、東アジア経済の成長と安定、それをアメリカ経済と結びつけることが極めて重要だからだ。
その米国から見て、日中関係だけでなく、やはりアメリカの同盟国(軍事的にはより重要)である韓国との関係まで悪化させる日本の動きは、理解不能、意味不明である。どうみても日本の国益にかなうことには見えないのだから、もうどうしようもない。
中国から見ても日本の動きは謎だ。
中国が「世界の工場」として急成長を遂げたといっても、そのメインは最終組み立て工場であり、日本からの部品の供給が不可欠である。逆に日本にとって、中国国内の工場に安定して部品を供給すること、中国国内であっても日本企業の工場を安定して稼働させ、日本企業が円滑に商売を出来ることは、日本経済にとって不可欠なはずだ。なのになぜ、日中関係を日本が悪化させるのか、自国の立場が回復不能になる状態に日本がどんどん自分を追い込んで行っているのか、中国にとっても米国にとっても、あまりに不可解なのだ。
なぜこんなことになったのか?
「安倍がバカだから」で済ましたいところだが、それだけでもないと思う。安倍だけでなく日本の、安倍に反対ないし批判的な人たちですら、今の世界のなかの日本の立ち位置を、正確に把握出来ていないことが根本的な原因なのだ。
安倍氏の靖国私的参拝に対し、ケネディ駐日大使率いる(国務省よりもオバマのホワイトハウスと直結している)駐日アメリカ大使館は、即座に「日本は友人であり同盟国だが、失望した」とする声明を出した。
たとえばこうした米政府の発言を、「オバマ政権は日本より中国と仲良くしたいのだ」「日本はアメリカから見捨てられる」と解釈する人が多い。
安倍シンパの人たちですら実はそのことを恐れてもいるし、だからなんの根拠もなく民主党政権は短命お飾りで、アメリカの実権は共和党なのだとでも思い込んでやり過ごそうとしている。
(で、毎度おなじみアーミテージ詣で、となるわけである。 いや今じゃただの、政権からつまはじきにされたシンクタンクの役員だってば)。
「日本は大事な友人であり同盟国である」というアメリカの態度は、オバマ政権になってもなにも変わっていないどころか、むしろかつてなく大まじめに実践されている。鳩山由紀夫が首相だった頃、オバマは日本の国益を最優先してまでその関係を強化しようとさえしていた。たとえば国務省東アジア課や国防総省の(利権があるが故の)反対を恐らくは押し切るか無視して、オバマと当時のクリントン国務長官は鳩山が普天間基地を最低でも県外に移設することに賛成している。
だから鳩山は彼に「トラスト・ミー」と言ったのだ。その文脈以外にこんな発言出てくるわけないじゃん。子供でも分かるよ。
ルース駐日大使(当時)に広島に行かせ原爆資料館を見学させたのも、(それが日本の悲願だろう、とアメリカ側は当然考える)広島と長崎への原爆投下についての謝罪の下準備であることは明確だし、自ら広島に行って謝罪すること、そこで核廃絶サミットを日本に主催してもらうこと(これも普通なら日本が国の名誉にかけて喜んでやりたがるはずのことだ)すら、希望していた。
なぜか日本がそれを無視した(アメリカの政治家は誰でも、日本はアメリカが広島と長崎のことを謝罪するよう望んでいるはずだ、と当然思っているのだが)のは不可解であり、鳩山の退陣も不可解ならその後の菅、野田の対米関係のやり方もさらに不可解であったにせよ、オバマのアメリカが日本を「見捨てる」としても、それは日本の政治家を「見捨てる」というか「相手にしても仕方がない」と諦めるだけであって、米中関係を優先するために日米関係を無視する、どうでもいいと思うことではまったくない。
なにを勘違いしているのか知らないが、日本はアメリカの最重要な貿易相手国のひとつであり、日本の資本はアメリカ経済に多大な投資をしているし、その日本が今も誇る世界最大の銀行預金量などの莫大なマネーをもっとアメリカ経済に投資して欲しいだけでなく、日本は中国と並んで最大の米国債保有国だ。
そしてアメリカ経済を支えるIT産業は日本の部品がなければ成立しない(たとえばapple製品はアメリカ企業の製品だが、中身は日本製の部品が大きな割合を占める)し、やはり順調な成長分野のメディア産業は腐っても鯛の日本製のカメラやモニターその他がないと成立しない。
そして日本は人口一億超の、それも世界でもっとも裕福な部類に入る所得水準の、巨大マーケットだ。
これだけの大国である日本、それも東南アジアにも、中近東にも、アフリカにも、そして無論中国と韓国と台湾の東アジア圏にも、アメリカとは比べ物にならないほど濃密な人的交流をもち、アメリカ人と異なって信頼もされている日本人を、アメリカが無視するわけが、出来るわけがない。
ブッシュ・ジュニアが失ってしまった最大のアメリカの財産とは、アメリカの信頼とアメリカへの憧れである。その8年間の政権の途中で、アメリカ人は突然、自分たちがもはや世界から尊敬され憧れられる国ではなく、時には憎悪され、少なくともまるで信頼されなくなっていることに気づいた。こと発展途上国と新興国の気持ちが、アメリカから思いっきり離れてしまっていた。
バラク・オバマが大統領に選ばれたのは、諸外国に対してアメリカの信頼を取り戻せる大統領、アメリカの理想がまだ終わっていないことをなんとか示せる候補だったからでもある。
だからバイデンさんには気の毒だが、次の大統領はヒラリー・クリントンの方が勝ち目がある。初の黒人の次は初の女性の方が、「アメリカという夢と理想」はまだ保てる。
逆に言えばオバマ政権はアメリカが信頼を失っていることを自覚している政権でもあるし、だから外交ではそれまでのアメリカ政府とは異なった態度を取っても来ているし。バイデンやオバマが建設的な米中関係を望んでも、元々似たような文化圏である上に、冷戦が終わるよりもずっと前、80年代には経済進出が本格化していた日本と日本人が中国に持っている人脈の厚みが、アメリカだけで出来ることとは比べ物にならないのも、分かっている。
そして中国も韓国も、むろん日本を無視する気も、敵視する気もない。だいたい、そんなこと出来ない。経済的にも政治的にも、損をするだけだし、日本経済が大コケでもしようものなら、両国とも大損害が波及する。だから日中関係の険悪化が日本経済に響くことを、両国は誰よりも心配している(なぜ日本人がそれを心配しないのかは、謎なんですけどね)。
日本人の大多数が、どうもこのことを分かっていない−−日本は未だに世界有数の大国、世界をリードする国のひとつなのだ。アメリカが中国との関係強化を望むのは、日本とも中国とも仲良くすることがアメリカの国益だからだ。むしろ日本を介して中国と仲良くする方が合理的なくらいで、「ジャパン・パッシング」なんてことは本来考えるはずもない。
だが結果として、アメリカ外交のジャパン・パッシングは起こっている。
しかしそれは決して、日本がアメリカにとって重要な国でなくなったからではない。アメリカにとって日本の政治は、どう相手にしたらいいか分からない存在になってしまったから、仕方なく、なのだ。
ただでさえ差別と闘って来た初の黒人大統領、それも教養もあり頭の回転も早く話もうまいオバマにしてみれば、どうしようもない金持ちボンボンで露骨に差別主義者でどうもネオナチらしい上に妙に卑屈な権威主義者、そのうえ教養は全然ないし、会話が成立しないほど頭が悪そうな安倍晋三は、相手にするだけ疲れるというより、ほとんど生理的な嫌悪感さえ覚える相手だろう。
やっと日米首脳会談が実現したときの、オバマの隠しようにも隠しきれない不機嫌っぷりは強く印象に残る。もう単純に「オレはこの男は大嫌いだ」が顔に出てしまっていた。
その上この安倍という男、どうも日本の侵略戦争の歴史をまったく悪とは思っていないらしい。これは中国や韓国以前に、アメリカの国是に関わる問題だ。日本の軍国主義が悪でないのなら、原爆投下も東京大空襲も正当化され得ず、アメリカにとって第二次大戦が「正義の戦争」でなくなる。
その上アメリカ大統領として最初に会った日本の総理大臣、今は副首相が「ナチスに学べ」なんて言っちゃうし…
原爆投下が人道上の罪であり戦争犯罪であるのは、実は自明のことなわけだし、クリントン時代に米政府が日系人の強制収容を謝罪したのに続き、自分の代ではやはり原爆と、それに沖縄戦のことは、アメリカが謝罪しなければならないだろうし、核廃絶とまでは行かずとも核削減の道筋もつけたい…と思っていたら、日本政府がその謝罪をまったく望んでいないし、被爆国の悲願である核廃絶にも興味を持たず、むしろアメリカが沖縄に配慮することを妨害さえするのだから、もうわけが分からない。
いやアメリカの、元は虐げられた黒人出身の大統領にとっては、まったく理解不能だろう。自ら独立や自主性を拒絶する政府がいるだけでも不思議だし、それも世界屈指の大国、人口でも経済規模でもアメリカの最大の同盟国、白人国家でない初の近代的先進国として自信満々な国でなければ本来おかしい国が、属国・保護国扱いを一生懸命望んでいるのだから。
かと思えば「慰安婦は売春婦に過ぎない(って国家が直接に強制的な売春に関わっていたのが慰安婦問題の本質だ)」とわけが分からないことを、今の日本の首相の仲間たちがアメリカの新聞に意見広告を出してみたりとか、在日米軍に日本の売春産業のトップセールスをやっちゃう政治家までいるとか、歴史修正主義の主張が歴史修正主義としてすら論理的に成立していないのだから、アメリカにしてみれば頭を抱える他はない。
だいたい、安倍晋三に靖国神社を参拝イコールA級戦犯を崇拝されては、習近平やパク・クネ以上に困るのがバラク・オバマなのだが…。
いや中国や韓国が怒り東アジア情勢が緊張するのも困るが、なにも知らないブッシュ・ジュニアがただの無名戦士の墓と思い込んで行きかけて、共和党の一部が激怒して取りやめになったことだってある。中国や韓国にとって以上に、アメリカの右派にとって東京裁判で死刑になった日本の戦犯は「悪魔」、絶対的な悪なのだ。
そんな基本常識も分かっていない、外交常識のまるで通用しない今の日本の政権と、どうやり取りをすればいいのだろう?それは仕方なくジャパン・パッシングにもなると思うよ。
それでも「大事な友人であり仲間」なんだから少しは道理を持ってくれと、どんなに日本政府に無視されても言い続けているのが、前大使のルースさんであり、今の大使のケネディさんなわけだ。
(さすがにケネディの娘なら、妙に卑屈なアメリカへの憧れ媚び売り丸出し安倍晋三なんだし、少しは言うこと聴くだろう、と半ばヤケクソの超セレブ人事だったんだろうね)
韓国も中国も、過去の戦争はあっても数千年にわたり文化圏を共有し、似通った、相互理解が可能な文化を持つ日本を、なにかあれば「同じ東アジアのよしみ」でそこはやはり信頼しているし話しやすいし、日本製品の優秀さに憧れてもいるし、市民は日本の大衆文化も大好きだし、日本から学ぶものが多いとまだまだ考えている。むしろ超大国アメリカと向き合うとき、先進国の大国として遥かに長い歴史を持っている日本があいだに入ってくれたり味方してくれることが有利ですらある。
なのに日本だけが、東アジアでアメリカに好かれるのは我が国一国だけじゃなきゃイヤだと駄々をこねているのか、米中友好や米韓友好イコール日本が捨てられる、と勘違いしているのだ。他の国は東アジア共同体、こと経済ではこれからの世界を率いる経済圏を目指しているのに。
逆に言えば、アメリカも中国も韓国も、台湾ですら、今の日本を実はまったく理解していないとは言える。
確かに日本と日本人は、世界中から理解されていない国と民族なのかも知れない−−多くの日本人がそう思い込んでスネているのとはまったく違った次元で、極めて皮肉なことに。
ここまで裕福で、豊かな文化伝統を持ち、近代化学の分野でも優れた才能も輩出し、住めば安全で清潔で快適に見える、夢のような「先進国」を実現し、日本=おしゃれで高級イメージで、チェーン店などの進出も目覚ましいのが、その当の日本人がかくも自信をまったく喪失し、まるで幸福でなく、自分たちが大国であることに気づいてすらいない。
なぜなのか、とても不思議に見えるはずだ。
一度も植民地にされた歴史がない、独立を守り抜いて来たはずの民族、それも洗練された歴史伝統や文化芸術だけでなく、近代的な科学技術でも世界をリードするような中身を持っているはずの国が、かくも植民地根性に精神を毒され、アメリカに隷属したがり、中国や韓国を下位にみることで必死に偉ぶり、差別したがりつつ怯えている。
これは確かに、まったく理解不能だ。
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