韓国と北朝鮮のあいだで、北朝鮮の平昌オリンピック参加に向けた交渉が始まったことに、日本政府がえらくご機嫌斜めらしい。
政府だけならまだしょうがないが(安倍さんと熱烈支持層の思惑が外れて悔しいのは分からないではないが)、マスコミ報道まで同調しているのはさすがに呆れる。そんなことより、わずか一週間前には「新年早々に北朝鮮がミサイルを発射する兆候」を騒いでいたことはどう言い訳するのだろう? 案の定、完全な誤報になったではないか。
今度は「北朝鮮は韓国とアメリカや日本のあいだにクサビを打ち込むつもりで、韓国は騙されているんだ」と言わんばかりの報道というのも、自分達こそ見事に騙されたこと(「米国メディア」に踊らされてまたミサイル発射があると騒いだ空振り報道)の負け惜しみにも見えるというか、言ってることがコロコロ変わる無責任報道もみっともなさ過ぎはしないか? 北朝鮮外交が打ち出す狡猾なあの手この手の巧妙さもあるにしても、あまりに分析的な冷静さに欠如している。
恐らく昨年暮れに米メディアが「ミサイル発射の兆候」を報じたのは、無根拠なわけもあるまい。北朝鮮側がわざとそう報道させるような動きをこれ見よがしにやって見せて、アメリカ側が見事に引っかかっただけだ。金正恩は新年に平昌オリンピックへの参加を表明するサプライズ効果を高めるために、わざと真逆のことをその前に報道させるように、いわば「騙した」のだろう。
まあ引っかかる方が間抜け過ぎるわけなのは言うまでもないが。
もちろんオリンピックは「平和の祭典」だ。そのオリンピックが偶発的な軍事衝突がいつ起こるとも分からない環境で行われるなんてあってはならないわけで、韓国だけでなくIOCも北朝鮮の参加を切望しているのも当たり前だ。
対話が続いている間は少なくとも偶発的な開戦のリスクは低下するわけで、安倍さんはなにを「対話のための対話は意味がない」などと勘違いしているのだろう? それともオリンピック開催中に当の開催国が戦争に巻き込まれることでも期待していたのだろうか?
意表をつかれたドナルド・トランプは休日に思わず不満をツイートしてしまったが、そのトランプでさえウィークデーに入って仕事モードになれば歓迎を表明し(外交常識としてこれは歓迎するしかない)、北朝鮮が自ら妥協したようにも見えることを自分が圧力をかけてきたお陰だと言うに留めた。まあこれも苦し紛れな言い訳ではあるが、アメリカ国民にとっても日本国民にとっても、オリンピックが名実ともに「平和の祭典」になるのはまず無条件に喜ばしいことだ。
ましてこの南北対話の再開でアメリカも突然の軍事攻撃などはできなくなり、当分は北朝鮮のミサイル演習も核実験もないのが確実になっただけでも、少しは安心していい朗報ではないか。アメリカが韓国に圧力をかけて会談を潰そうとすれば、国際社会で孤立するのはアメリカだ。
まあトランプ本人は「オリンピックは平和の祭典」に巧くつけ込まれ、先手を打たれて梯子を外された交渉当事者として「してやられた」と悔しい限りではあろう。北と韓国のあいだで米韓合同軍事演習の無期延期みたいな話が出て来かねず、そうなったら韓国も文在寅政権ならむしろ賛同し、アメリカは演習ができなくなるかも知れない。それでもここは「大人の対応」に徹しないことには、結局アメリカ政府は戦争をやりたがっているだけじゃないか、と国際社会からも国民からも批判が殺到しかねない。ましてトランプは北朝鮮をただ敵視するだけで、言いがかりをつけて滅ぼしたがっているのだ、とでも思われるか言いがかりをつけられるだけでも外交的な大惨敗になるし、北朝鮮に巧妙にそこまで持ち込んでしまったのだ。
韓国の国民にしてみれば、リベラル派の文在寅を支持しているのにアメリカの勝手で戦争に巻き込まれるなんてたまったものではないし、元々右派政権や軍の対米従属が支持されて来ているわけでもない(朝鮮戦争でアメリカに「守ってもらった」高齢者ならともかく、とりわけ若い世代にとっては「うちの国は本当に独立国なのか?」としか思えず、屈辱的でしかない)。
どうもここが日本では理解されにくいらしいが、どの国でも自分の政府がアメリカが超大国であるというだけで言いなりになっている姿(それもその大統領は人種差別主義の白人至上主義者に支持されているドナルド・トランプ)には、大なり小なり不満があって当たり前だ。
まして自国主催のオリンピックの最中に、アメリカの勝手な戦争に巻き込まれるなんて、民族への侮辱以外のなにものでもない。
もちろん交渉初日からトントン拍子で様々なことが決まったのを見ても(というか、正月の訓示で金正恩が五輪参加に言及した時点で分かりきったことだが)、北朝鮮が実は最初から平昌五輪に参加するつもりで、公表するタイミングでどう有効な外交交渉カードに使えるのかが、北朝鮮の政府内で慎重に考え抜かれて来たのは間違いないだろう。
まただからこそ、北側の代表は上機嫌で「記者さんたちも興味津々のようだし、いっそこのまま記者に公開で会談しましょうか?」と提案するほど落ち着き払っていたのだろう。一方の韓国側は、同盟国のアメリカへの配慮や、日本や中国との兼ね合いがあるのでさすがにすべて公開するのは二の足を踏むしかなかったが、これも北側に一本取られた格好だ。
「国際社会が北朝鮮を非難している」と日本のマスコミが言いたがるのはかなりの部分、日本国内でしか通用しない誤解だ。ハタ目にはしょせんこれは北朝鮮とアメリカの私闘バトルに過ぎず、北の核開発をアメリカが批判するのも客観的には「どっちもどっち」でしかない。北朝鮮が常にアメリカによる圧倒的な核攻撃のリスクに晒されていて、アメリカがそれを北朝鮮に対する「核抑止力」だと主張するなら、アメリカがその核攻撃能力をみだりに使えないようにするために北朝鮮がアメリカに届くICBMに核弾頭を搭載しようとするのもまた「核抑止力」でしかない。
国連安全保障理事会が「国際社会」を代表しているわけでもまったくなく、非難や制裁が決議されるのは、核武装を独占できる特権を守りたい常任理事五大国に安保理が牛耳られているからに過ぎず、その常任理事国が今の国連では核兵器禁止条約をボイコットしようとして孤立している。とりわけ核兵器禁止条約について同盟国に圧力をかけて反対させたアメリカの横暴に、それでも超大国なので文句も言えず、しぶしぶ付き合わされただけなのが安保理の制裁決議だ。
しかもオバマのアメリカならともかく今はエルサレム帰属問題への反対決議に人道援助の打ち切りで脅しをかけたようなトランプのアメリカだ。折しも政権の内幕暴露本「Fire and Fury」がベストセラーになったアメリカ国民にさえ信頼されていない。
そして「核・ミサイル問題」が北朝鮮とアメリカのどっちもどっちの「私闘」に過ぎないことを、南北会談で北側は、核武装はひたすらアメリカだけを狙ったもので、同朋を核で狙うなんてやるわけがない、と強調してみせた。記者会見では「核問題は南北間の交渉の対象ではない」とも述べたし、双方合意の共同宣言では「南北間の問題は同じ民族どうしで解決する」とも書かれている。
交渉の開始時に北側が、いっそ会談すべてを記者に公開すればどうかと提案したことに、日本のメディアは驚いたフリをしているが、驚くことなどなにもない。この交渉で北朝鮮に隠し立てすることはなにもないのだ。核武装はアメリカの核の脅威に対抗するためで、そこに裏も表もなにもない、まったくそのまんまでしかない。
北朝鮮政府がプライドにかけて吐露できない本音があるとすれば、実のところアメリカの核兵器で殲滅される脅威さえなくなり、韓国の政府が右派政権になって対米従属に徹して北を敵視することや、やはり対米従属しか能がない日本政府が国民の一部の在日朝鮮人差別を公然と支持するような態度を取ることもなくなって、国力の差はあっても対等の主権国家どうしの最低限の礼儀が守られた関係さえ築ければ、わざわざ大金のかかる核開発なんてやりたくもないし、うちは貧しい国なのだから本来ならもっと金を使いたいところはある、というリアリティだけだ。
日本のメディアは北朝鮮が韓国に五輪参加の旅費を要求するに違いないとか言っているが、選手や役員は選手村に泊まる権利があるのになにを言っているのか? 移動は板門店かどこかで38度線を超える陸路の方が政治的アピールは大きくなるし、経費も安い。むしろ韓国側が融和のアピールのために招待などの扱いにしたいわけで、それを「国連の制裁決議を守れ」と言って日米が圧力をかけるなら、国際的に白い目で見られるのはその日米の方だ。
「南北の問題は民族どうしの対話と交渉で」と言う共同宣言も、日本政府や日本のメディアは大いに不満で「国際社会を無視している」などとひどくトンチンカンなことを言っているが、これも現代の国際秩序の基本哲学からして当然のことで、反論の余地はない。国際連合憲章の基本は、民族自決権だ。ひとつの民族の内部の問題に他国はそもそも口を出す権限がないのが、現代の国際秩序の根本原理だ。
まして南北朝鮮が分断しているのは、世界史的には他国の都合に振り回されて来た結果の、日本の植民地支配と冷戦の遺物以外のなにものでもない。大日本帝国陸軍が植民地を守ろうともせずに敗走し、アメリカとソ連の都合で分断されてしまったのが朝鮮民族の悲劇であり、それを克服できるのが朝鮮民族の主体性だけなのは、その通りなのだ。アメリカを射程に納めるICBMの開発はしょせんアメリカの問題で、韓国の問題ではないのもその通りで、韓国にはここでアメリカへの配慮を見せて自国が半植民地の属国でしかないことを曝け出すなんて選択肢はない。
まだ韓国(や日本)が核兵器禁止条約に参加して、核兵器開発そのものを批判できるのなら話は変わって来るが、どちらも同盟国(宗主国?)アメリカへの配慮から投票を棄権している。ましてアメリカの「核の傘」の「抑止力」に期待しているというのなら、北朝鮮に完膚なきまでにやり込められてしまうだけだ。
一言でいえばまたもや北朝鮮の外交的圧勝で、しかも今回は韓国もまたまったく敗北はしていない。韓国には韓国の安全保障があり、北朝鮮のICBMの開発はアメリカの安全保障問題であって直接に韓国の安全保障には関係がない(韓国相手にICBMを使う必要はないし、同民族・同朋というだけでなく放射能汚染の問題もあるのだから韓国に核攻撃はまずやらない)という理屈でメンツは保たれているし、そもそも韓国側には核について北に妥協を迫れるカードはなかった。それがあるのはアメリカだけ、北が交渉できる相手は最初からアメリカしかいない。
とりあえず金正恩にとっては、朝鮮戦争が国際法上ではまだ「休戦状態」であることは変えなければ国の将来がないわけで、そのために使える外交カードが核とミサイル以外に見当たらないような状況に追い込んだのは彼が権力を継承してからの、例えば拉致問題の再調査の申し出をうやむやに誤摩化した日本の安倍政権や、韓国の右派政権、李明博と、とりわけ金正日への代替わり時点の政権担当者だった朴槿恵の対米従属・北敵視政策だった。北朝鮮から見れば韓国の右派はなぜ人種差別丸出しの植民地主義に与するのかとしか見えず、韓国ではその朴槿恵はすでに失脚して判決を待つ被告人の身であり、右派政権の過去の軍事独裁時代から本質的に変わっていない権力私物化体質の刷新を掲げて当選したのが、今の在文寅大統領だ。
ちなみにその韓国右派の源流であり腐敗体質・権力私物化の源泉でもある軍事独裁政権を支えた後ろ盾がアメリカだった過去も、韓国国民は忘れていない。共同宣言に「南北間の問題は同じ民族どうしで解決する」明記されたのには、こうした歴史的背景もあるのは見落とすべきではないだろう。北朝鮮から見れば南北の分断を固定化させたのはなによりもアメリカの陰謀であり、他の要因もあるにせよ、韓国を冷戦の極東における最前線にしようとしたアメリカの意向こそが南北分断の最大の原因であり続けて来ているのも、客観的に見れば確かにその通りなのだ。
いやソ連はどうなんだ、金日成の後ろ盾だったのはソ連ではないかと言うのなら、そんな国はもう四半世紀以上前になくなっている。アメリカの自由主義が共産主義に勝ったと言うのなら、勝って世界の覇者となった側に一定の責任があるのは当たり前だ。
ヨーロッパで鉄のカーテンは崩れたのに朝鮮半島は分断されたままだったのはなぜか? はっきり言えば当時はまだヨーロッパ出身移民の子孫が中心の白人国家だったアメリカでは、極東アジアの朝鮮半島に関心がほとんどなかったことと、西ヨーロッパが曲がりなりにも民主主義国家だったのに対し、韓国は永らくアメリカの傀儡的な軍事独裁政権で、冷戦の終末期にやっと民主化が始まったばかりだったからだ(ちなみに韓国の民主化を「自由と人権」を常に大義名分にしたがるアメリカが支援したわけでもない)。
北朝鮮からみれば、韓国の政権が自分達を敵視する対米従属の右派ならまだしも、同じ民族の同朋が「平和の祭典」を開催するから祝福し、参加したいというのもこれまた当たり前で、これまた北朝鮮には隠し立てするところはなにもなく、「いっそこのまま記者の皆さんの前で公開で会談を」という提案を北朝鮮側ができたのも当然だ。むろん実を言えばたった2人、フィギュアのペアが一組だけの参加なのはいささか肩すかしではあるが、たったそれだけのことをこれだけ有効な外交カードに使いこなす(しかもオリンピックが民族の名誉だから協力したいこと自体は噓ではない)だけ、北朝鮮の外交は頭がいい、自国の交渉カードで国際的になにが通用してどう使えば有効なのかを考え抜いている、というだけのことでしかない。
逆に言えば、かつて1988年のソウル五輪の前に北朝鮮がテロ行為を繰り返したことを上げて「北朝鮮がオリンピックを妨害するはずだ」と思い込んで来た側が馬鹿を見ただけで、当時は冷戦の東西対決の末期だったわけで、今では状況がぜんぜん違う。むしろそんな時代錯誤な偏見に凝り固まった側のはっきり言えば頭の悪さが、あっけなく北朝鮮に裏をかかれただけだ。
日本のメディアの論調は北朝鮮がオリンピックを利用して韓国をアメリカや日本から分断しようとしていて、騙されている韓国はけしからんと言わんばかりだが、まさに「バカも休み休み言え」の典型だ。
軍事同盟はあっても、アメリカも韓国も日本もそれぞれに、国益も立場も異なっている。こと北朝鮮が今回の交渉で明言したように、核とミサイルの開発の標的はアメリカであって同朋にそんなものは向けない、というのであれば尚更のことだが、ぞもそも現在の懸案はアメリカに届くICBMの開発を許すかどうかで、トランプ支持者の求めるアメリカ・ファーストで言えば韓国や日本を犠牲にしてでも北朝鮮にそのミサイルの開発は許すな、という極論にすらなりかねないことにまったく危機感がない日本外交はどうかしている。
逆に言えば日本だって、日本列島を射程に納める中短距離ミサイルなら300発以上はすでに実戦配備されているのだ。韓国だけでなく日本にとっても、ICBMの開発は実はその安全保障にはなんの関係もない。なのにアメリカに届くミサイルを阻止するための軍事行動の報復攻撃で日本に核を搭載した中短距離ミサイル(これはとっくに実戦配備されている)が飛ぶことでも望んでいるとしか思えないのが、「韓国がアメリカや日本から分断される、韓国は騙されている」と言いたがっているガラパゴス安倍政権のニッポンだ。
それどころか「日米韓の結束」を自らぶち壊しにしたがっているとしか見えないのが日本政府だ。
南北会談と同日に、韓国外務省が2年前のいわゆる慰安婦問題「日韓合意」についての結論を発表した。この日程についてまで日本政府は疑心暗鬼に陥っているが、調査報告を昨年公表している以上は、南北会談とほぼ同時になったのは基本的に偶然の一致に過ぎない(強いていえば、北朝鮮が見計らったタイミングがそこも含めてだった可能性はあるが)。
この結論は極めて分かり易いものだが、日本のメディアは一生懸命に「分かりにくい」と印象操作に徹している。まず問題はあっても国家間合意なので、一応破棄はしない。慰安婦制度の被害者の皆さんの「癒し」と「和解」ならば、彼女たちが韓国国民ならばそれは韓国政府の責任なので、日本が拠出した10億円は要りません。「不可逆的な合意」はあるのでこれ以上韓国から日本にとやかくは言わないが、被害者が納得できる謝罪に務める義務が日本政府にあるのは、当然分かっていますよね、と言うこの上なくシンプルかつ当たり前のものだ。
要するに日本が、というか安倍政権が韓国に「ちゃんと謝ろうね。そしたら許してあげるから」と言われただけのことで、わざわざ「自発的で心のこもった謝罪」と言われたのがカチンと来るのは、気持ちは分からないでもない(他人から「自発的に」と言われるのは本来は矛盾していて、子供を叱るときくらいしか用いられない上から目線レトリックだ)が、これも自業自得だ。2015年の日韓合意の公表された3項目の第1は、安倍首相が「心からのお詫び」を表明することだったはずだが、日本側によればその義務は岸田外相がその文言を共同会見で読み上げただけで済んだことになっているらしい。
いったいどこが「心から」なのかそもそも理解不能だし、日本国内ではこれが合意内容の第1だったことすら無視されている。
だいたい子供の喧嘩の仲裁じゃあるまいし、一回謝ったからもう水に流してお互いに言いっこなしにしましょう、なんていうのが死亡者や事実上殺害された者も多い深刻な人権侵害で通用するわけがないだろうに、いったいなにをもって「最終的」と日本政府は言っているのか?
政府高官(と新聞で書かれるということは、菅義偉官房長官かその副長官のこと)は「一度行うと『次はこれ』『次はこれ』と要求される。そうならないために合意に『不可逆的』と盛り込んだ」と言い訳しているらしいが、今さらバレている噓になぜ固執して国民を騙そうとしているのだろう?
「不可逆的」はすでに韓国外務省の調査報告でも事実関係が確認されているが、韓国側が日本に要求したことで日本側が「盛り込んだ」ものではない。つまり河野談話による謝罪が日本政府の公式見解で、2015年末にも安倍首相が「心からのお詫び」を表明したことが「不可逆的」だと言質を取られたわけで、つまりは、もうこれはひっくり返しませんよね、「ただの売春婦」だの「でっち上げ」だのの暴論は今後は一切言いませんよね、しっかり反省してその反省を翻すことはありませんよね、という再確認でしかなく、日本政府が国内向けに印象づけようとしているような「10億円払ったんだから今後は慰安婦の『慰』の字も言うな、国民にも言わせるな」なんて意味には最初からなろうはずもない。
河野外相は韓国外務省の発表にさっそく「抗議」をしたそうだが、その中身は「さらなる措置を求められることはまったく受け入れられない」だというのだからトンチンカンな言いがかりもほどほどにして欲しい。そんな「さらなる措置」なんてまったく要求されていないどころか、日本政府の「措置」のつもりだった10億円も「要りません」と言われただけだ。
日本政府には抗議する理由なんてどこにもない。安倍首相が「心からのお詫び」を表明するのが合意の中身なのだから、「自発的で心のこもった謝罪」が期待されるのは理の当然だ。これ以外に韓国外務省は日本政府になにも求めておらず、10億円も「要らない」と言っているのに、なにが「さらなる措置を求められること」になるのか? だいたい安倍自身が「深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たち」がいたと認めている(戦後70周年談話)ではないか。確かにこの受動態の一文の主体は曖昧だが、まさか「日本軍の被害者のことではない」、戦後の占領下での米軍のレイプ被害者のことだとでも、いきなり言い出すのだろうか?
いくら安倍だってまさか「お詫び」はするが「謝罪」ではない、という意味不明な詭弁でも始まるのか、というのはさすがにないとは思うが、朝鮮民族は儒教の伝統があり、敬老精神が文化の重要な一部になっている。韓国が北朝鮮に、その高齢の、それも戦時性暴力の被害者をこうも侮辱して植民地支配についてなんの反省もない日本の言いなりになるのか、と言われれば…というか言われる前から、韓国政府は沽券にかけても、安倍の「お詫び」ないし「謝罪」をうやむやにする態度を許容できるわけがないし、国際社会にも支持されない。
これでは対北朝鮮の「連携」が必要なときに、自国の身勝手どころか総理大臣の個人的な趣味だけで日韓を分断させているのは、一方的に日本側ではないか。それどころか安倍の訪米時に慰安婦制度被害者に対する不誠実な態度を批判したのはアメリカでも特に与党共和党だし、#MeToo というセクハラ被害者女性の告発が大きなうねりになっているのに、安倍はセクハラ疑惑がささやかれ性差別主義者だと批判されているトランプとなら「個人的な信頼関係」が築けるとでも思っているのだろうか?
それに韓国外務省は要するに、10億円なんてどうでもいいので自発的な謝罪を、と言っているのだ。はっきり言ってしまえば日本にとってはタダで済むことでもある。安倍さんとネット上の熱烈支持層が悔しがって前後の見境のつかない興奮状態に陥ること以外に、日本国民にとってなにも損をすることはない。
0 件のコメント:
コメントを投稿