最新作『無人地帯 No Man's Zone』(2012)
〜福島第一原発事故、失われゆく風景、そこに生きて来た人々〜
第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品作品

12/14/2016

北方領土は帰って来るのか?


端的に言ってしまえば、安倍晋三はウラディミール・プーチン相手に「領土問題」の話をしている【つもりだった】らしい。だが実際に話していたのは経済協力と平和条約の締結だけで、もちろんプーチンはそれが安倍にとっては「領土問題の話をしているつもり」なのだと見抜きはしつつも、なにしろ安倍がはっきり言わないものだから、巧妙に手玉に取って経済協力の約束を取り付けるついでに、安倍が期待していたのとはまったく逆の方向で日露間の領土問題を決着させてしまおうとさえしている。

一点だけよく分からないのは、安倍が本気で自分は領土問題の話をしていると信じ込んでいたのか、プーチンの顔色が怖くてとてもではないが言い出せないまま、日本国内向けには虚勢を張って確信犯で嘘を言っていたのか、である。

まあいずれにせよプーチンは、その安倍の国内向けの虚勢さえもこの際徹底的に打ち砕こうとしているし、それはただいかにもこのマッチョ政治家らしいマウンティングであるだけではない。

プーチンはあわよくば、ロシア政府が現在も有効とみなしている1956年の日ソ共同宣言で約束されていたはずの、色丹島と歯舞群島の返還すら、履行しないで済む決着に、日露首脳会談を持ち込もうとしている。

それにしても、これは安倍に限ったことでもないが、こと領土問題の扱いとなると、日本外交はつくづく苦手であるらしい。

安倍首相が人気取りの思いつきのようにこの5月頃から言い始めた「新しいアプローチ」による対ロシアの北方領土返還交渉は、プーチン露大統領の訪日前にすでにほぼ絶望的な結果になりそうだ、という予測が大勢だが、そもそもこの日露交渉は「領土問題」がテーマだと思って来たこと自体が、日本側の一方的な思い込みだったようだ。

訪日を目前に読売新聞と日本テレビのインタビューを受けたプーチンが語ったのは「四島の返還なんてこちらは一切聞いていないのに日本が勝手に話を進めている」と不信感も露に安倍側の嘘を厳しく非難する内容だ。

日本政府からなんの反論も出ていない以上は、事実関係そのものはプーチンの言う通りなのだろうし、それはこの一連の日露交渉で報道された実際の事実関係を見ても確認できる。

たとえば安倍氏が5月にソチのプーチンの別荘に馳せ参じたり、9月の首脳会談でも「手応えを感じた」などなどと言っていたのは、ひたすらプーチンの機嫌をとることだけを優先させて経済協力を申し出るばかりで、平和条約のことすらロクに交渉せず、まして四島の帰属のことなんてなにも言っていなかったからだったと考えた方が説明がつく。

だいたい「新しいアプローチ」を言い出した時点から、実際に報道されていた交渉の内容は、一貫して経済協力の強化と、1956年の日ソ共同宣言で合意したもののそのまま「棚上げ」になっていた日ソ(今では日露)平和条約の締結に向けた話だけだったではないか。

この時点では、「もしかして『新しいアプローチ』とは二島先行返還論のことなのか?」とでも考えるしかなかった。日ソの国交が正式に回復した1956年の日ソ共同宣言には、平和条約の締結と同時に歯舞と色丹が返還されるという約束が明記されているからだ。 
だがなぜか、「新しいアプローチ」についてそういう分析をするメディアは一切なかった。 
こういう報道しかやらないから世論が領土問題をまったく理解できないままになり、その世論への配慮が優先されるから、いわば「嘘に嘘を重ねる」のに近い格好になり、だから日本の外交は、竹島にしても尖閣諸島にしても領土問題の扱いで失敗ばかり続けてしまう面も大きい。

日本の政界の理屈では、この60年前の共同宣言でもっとも重要視して来たのが平和条約締結と同時に色丹島・歯舞群島を返還する、という部分であり続けて来たので、日本側の認識としては、二島の返還については議論していた、という認識にはなるだろう。

だがそれは、一方的な日本側の認識でしかなく、ソ連(ロシア)がそれを共有して来たわけではない。

少なくとも外交の建前・国際常識でいえばもっとも重要なのは平和条約の締結、つまり第二次大戦が国際法的にはまだ完全に終結したことになっていない状態を改めることであって、外交の建前上は国境地帯の小さな島々の帰属は付随的な、より低い重要性しか持たない。

プーチン大統領は今回、見事にこの部分で安倍外交の揚げ足を取ってみせた。

これまで交渉して来たのはあくまで平和条約の締結とより密接な経済協力のはずなのに、まだ平和条約の締結時に返還と約束して来た歯舞・色丹だけならともかく、いつのまにか日本側が択捉国後という、ロシア側から見ればまったく関係ない問題まで盛り込んだかのように言っているのは不誠実な二枚舌外交でロシアを騙しているではないか、と今や安倍をストレートに非難しているのだ。

繰り返しになるが、「『新しいアプローチ』とは二島先行返還論のことなのか?」と考えるのが最初から日本側の認識でも自然になるわけで、なぜかそう報道はしなかった日本のメディア、そういう議論から逃げた日本の「識者」がおかしい、ということにしか客観的にはならない。 
もちろんそれは、別に「新しく」もなんともないわけではあるが。

この露骨なまでの不信感の表明は、もちろん相手がプーチンであるからには、演技だと考えた方がいい。

その上でプーチンは日露首脳会談については「信頼関係の構築」を強調もしている。つまりは安倍に「誠意を見せろ」イコール「俺を納得させろ」と脅しているのに等しい。

もちろんしたたかなプーチンのことである。

安倍が国内向けの人気取りの二枚舌で北方四島の返還を国内向けでは言っていること、最初から安倍がその二枚舌で自分に接近して来ていることは、最初から百も承知だった。

自分の意図を完全に理解されているのに、安倍はそのことをはっきりとプーチンに伝えたことが一度もなかったのだろう。そうでなければプーチンが11月末のペルーでの会談以降態度を豹変させたことに安倍政権があわてふためくことも、ダンマリを決め込むこともないはずだ。

こんな時に限って日本的な「察してもらう」「以心伝心」の文化をよりにもよってプーチンに期待する方が考えが甘いわけで、明言はしない意図を相手国に見透かされるというのは、外交では揚げ足をとられる弱点・失点にしかならないとういう当たり前のことが、この総理大臣は何度外交上の失態を繰り返しても、未だに学習できないらしい。

で、安倍側がそれでも北方領土の返還に目処をつけることに固執しつつ、しかしプーチンに面と向かってはそれを言えない立場に追い込まれては、一縷の望みにすがって逆に色丹・歯舞の返還の望みすら断たれる話に乗らざるをえなくすらなり得る。

つまりこのままでは、ソ連からロシアへの政権の移譲後も有効性が確認されている日ソ共同宣言に明記されていた、歯舞・色丹の将来的な日本への返還も、「日本側の態度が不誠実」という理由で白紙撤回されかねない。

というか、ウラディミール・プーチンは最初からそれを狙っていたと考えた方が、恐らくは正確な認識だろう。

色丹島は日ソ共同宣言以来、理論的にはいつ日本に返還されてもおかしくない状態にあった。現在3000人ほどの人口があるそうだが、国後・択捉にはメドヴェージェフ大統領、二度目のプーチン大統領の政権下で大規模なインフラ整備などの経済開発が進んでいるものの、「いつ日本に返すか分からない」色丹島ではそこまでの開発は進められず、島は人口減少リスクでも苦しんでいるらしい。

つまりプーチンにとっても色丹の帰属を確定させる必要はあるのだ。ならばこの際、安倍の不誠実な二枚舌ないし的外れな「以心伝心」「配慮」「察する」期待を逆手にとって、色丹・歯舞も返さずに済む大義名分の確立にまで漕ぎ着けることができれば、色丹の住民のための開発事業も進められるし、今ある以上に重要な軍事設備を置くことすら可能になる。

こうした相手国の利害や立場も考えず、つけ込まれる弱みになんの対処もしていなかった安倍外交が稚拙なだけだ

つまりは安倍晋三は自分からプーチンに擦り寄っておいて、逆に足下を見られ、みごとにしてやられたのだが、最初からあまりに認識が甘かったとしか言いようがない。

なにせ安全保障の問題だけでも、ちょっと考えれば分かり切った話なのだ。

なのに安倍政権では今まで、そこを考えもしなかったらしい。だとしたらあまりに呆れた独りよがりの「前のめり」、愚劣な希望外交でしかなかった。

そもそも安倍を落胆させた首脳会談の直後にロシア政府が発表した通り最新の対艦ミサイルの配備が完了している択捉・国後だけでなく、すでにロシア軍の基地がある色丹島も、ロシア側からすれば現状、安全保障の観点から、日米安保に依存する日本には返還できるわけがない。返還したとたんに色丹・歯舞が米国の軍事拠点になることだって、米政府が要求するだけでそうなってしまうのだ。

そもそも、安倍首相はこれまで自民党の先輩達がなぜこの問題で苦労して来たのかもまったく勉強していないらしい。

択捉、国後、色丹と歯舞群島の帰属は、日本側からみれば日ソ中立条約を破棄して終戦間際になって参戦して来たソ連軍に不当に占領された土地、というのが公式見解であり、その主張自体にはもちろん一定の正当性がある。

しかし、日本人や日本外交がひどく苦手なことなのだが、外交とは常に相手国があるものであり、その相手国には自国の利害もあれば、自己正当化の論理付けもあって当たり前なのだ。

ロシア(ソ連)側からみれば日ソ中立条約の一方的な破棄も、自国に二千万の犠牲者を出したナチスの同盟国である日本がいつまでも抵抗を続けていた1945年夏の段階で、世界の平和の回復のための当然かつ正当な判断ではあったわけで、またアメリカを中心とする他の連合国からの要請もあった(ヤルタ会談、ポツダム会議)。

たとえ日本の主張に正当性があるからといって、領土問題で相手国が完全に間違っているなんてことは絶対にあり得ないことが、なぜか日本人には理解できないらしい。  
まして第二次世界大戦で日本やドイツはただ敗戦しただけではなく、人道に対する罪、自らの野心で世界平和を危機に陥れた罪で裁かれた側となるのが、戦後の世界秩序の基本だ。それが「戦勝国の論理だ」というのなら、まずサンフランシスコ講和条約の破棄でも明言することから始めるのが筋であり、それができないのなら黙っているしかない。
だが外務省もそんな二枚舌の欺瞞に無自覚に耽溺する世論に配慮した内向きの政策しか提案できず、だから日本は外交的な惨敗を続けることになる。

そしてロシアからみれば、第二次大戦の敗戦で日本は千島列島と南樺太の領有権を放棄したはずであり、択捉と国後の二島はロシア側の地理的な認識では「南クリル列島」つまり千島列島の一部で、日本が放棄した島々に含まれるという見解になる。

その「千島列島の一部」には地理的に属さないとソ連ないしロシア側も認めざるを得ないのが色丹島と歯舞群島で、だから戦争の過程で一方的に占領領有した領土は平和条約の締結と同時に返還する、というのが1956年の日ソ共同宣言の領土問題に関するロジックだった。

つまり日本から見れば「北方四島」でも、ロシア側から見れば千島列島の一部である国後と択捉の二島と、歯舞色丹では、少なくとも建前上はまったく認識が異なるし、歯舞と色丹についてはだから共同宣言と同時に平和条約の内容を詰める作業が始まったはずで、1956年からみて近い将来に返還されるはずだったし、ソ連も当初はそのつもりだった。

しかもその日本側でさえ、サンフランシスコ講和会議の時点では、吉田茂首相が択捉と国後は千島列島だという認識だったし、普通に地図を見れば確かにそうとしか見えない。

平和条約の締結と色丹・歯舞の返還という流れが完全に止まってしまったのは、ソ連(ロシア)側からみれば日本側の責任になる。

それに日本側でも、日ソ平和条約による戦争状態の最終的な法的終結とこの二島の返還・帰属よりも、別の政策を優先させることで、事実上自らこの二つの島々を見捨てた、取り返すことを諦めたことも、国内の報道ではまったく触れられて来ていないものの、間違いのない史実だ。

1960年の日米安保条約の改正だ。

アメリカが日本に軍事力を置くことを戦後の占領と無関係に認め続け、米軍が自国の軍事背安全保障政策に必要な基地を日本が提供し続けることを約束したこの条約により、アメリカがソ連を牽制するために、返還された色丹島に米軍基地を置くことも可能になる。

当時の冷戦下では、ソ連側からみれば自国領土の防衛の観点から、この二島を日本に返還することが絶対にあり得ないことになるし、岸信介政権もその程度のことは百も承知だったはずだ。

日本政府はそれが分かっていても、日ソの友好関係と平和条約、沿岸の北海道魚民の利益や、なによりも故郷の土地に戻したい旧島民の悲願よりも、日本全体の安全保障政策と冷戦下での日米の連携(というか対米従属と、アメリカの軍事的メリット)を優先させて、いわば歯舞・色丹を見捨てたのだ。

しかも日本政府はサンフランシスコ講和条約と、そして日ソ共同宣言の時点では日本側も色丹と歯舞の返還を求める立場を公式には表明しながら、国内では二島ではなく四島一括でなければ、と言う二枚舌を続けているし、そこにはアメリカの圧力も垣間見え、平和条約締結にアメリカが圧力をかけた事実すらある。これではソ連(ロシア)側から見れば明らかに不誠実で一貫性に欠ける態度にしか見えない(少なくともそこを責め立てる日本側の弱点・失点になる)。

だから60年安保以降、北方領土問題が動くことはまったくなく、こと知床半島と択捉・国後のあいだの海が極めて豊かな漁場であることから、冷戦期にはこの海域で操業していた日本漁船が拉致拿捕される事件も相次いだ。

北方領土の問題と平和条約の締結が再び動き始めたのは冷戦の終結がきっかけだった。

ソ連(ロシア)にとっては軍事的要衝としてのこの四島の価値が低下する、事実上なきに等しいものになる一方で、冷戦を終結させその禍根を清算するという大義名分を果たすべき状況になったからだ。

まずミハイル・ゴルバチョフ・ソ連書記長が来日して海部俊樹首相との交渉を進めたのが、これはペレストロイカが思うように進められなくなっていたゴルバチョフ氏の政権基盤が、この訪日中にモスクワで起こった事実上の無血クーデタに近い政変で揺らいだことで、立ち消えになってしまった。

そのソ連がなくなり、ロシア共和国となった時点で、ボリス・エリツィン初代大統領と日本の橋本龍太郎首相のあいだで再び交渉が始まり、この時には橋本首相がロシアのエリツィン氏の別荘にまで招かれて膝を交えた親密な状況での交渉が進んだが、これもエリツィン氏自身の健康問題(心臓病)の突然の悪化と、それに伴う政権の弱体化で立ち消えになった。

こと橋本エリツィン交渉の時点では、経済的な混乱が収まらないロシアのなかでもとくにシベリアより東の地域は貧困に苦しみ、北方四島のロシア人住民のあいだでも日本の経済力に期待し、自分達の住む権利さえ保証されるのなら日本領になってもいい、というくらいの意見すら出ていたし、冷戦が終わったこの時代の空気のなかでは、繰り返すがこの四島の軍事的な要衝としての位置づけは限りなく低下していた。

あとはロシア国民にとって「貧しさのあまり領土を売り渡した」という形になってしまうプライドの問題が国民の反発を買うのではないかという心配だけが最大の障害になり、ゴルバチョフ、エリツィンの両政権もあと一歩のところで決断に踏み切れなかった、というのがこれまでのだいたいの流れだった。

安倍氏は、こうした自分の祖父も含む、自党の先輩たちの苦労を、まったく知らないのだろうか?

北方四島をめぐる交渉が進められようとしていた過去のいずれの時期と較べても、ロシア側では今この四島の帰属をわざわざ議論することのメリットも、モチベーションも遥かに少ない。

まずゴルバチョフ、エリツィンの二人にとって、冷戦の後片付けが政権の大きな役割だった。

日本との平和条約締結と領土問題の解決はその象徴的な意味を持つし、なんといっても四島は確かにスターリン独裁時代に日本から奪ったものでもあるのだから、旧体制への批判と反省を示し日本との新しい友好関係を確立するという立場からも、共同宣言に明記された二島だけでなく四島も含めて日本に返す、という大義名分は立てられなくもなかった。

しかし今はまったくそんな時代ではない。

冷戦の終結を世界が喜んだのはもう20年以上前のことで、今や新冷戦が始まることすら危惧され始めるなか、この四島の帰属問題は再び強く軍事的な意味合いすら持ち始めている。

ロシアはアメリカやEUとウクライナをめぐって対立を深め、シリア内戦でも立場の違いが鮮明化している。

安倍首相はプーチン氏との「個人的な信頼関係」が通用すると思っていたようだが、ロシアからみればその安倍政権は、昨年新安保法制を強行したのを見ても、沖縄県と県民の反対をおしきって普天間基地の辺野古移設や高江のヘリパッド建設を強行しているのを見ても、対米隷属と米軍の軍事プレゼンスに依存する傾向が以前の日本のどの政権よりも顕著な政権だとしか見えない。

プーチンがそんな対米従属べったりの安倍の日本を信頼して四島を返すなんてことは、防衛政策上絶対にあり得ない。

択捉と国後はそもそも「千島列島の一部」の認識なのだから返還を論ずる対象にならないし、色丹島だけでも米軍の軍事的な要衝になり得る以上は、日ソ共同宣言で合意されている色丹歯舞返還の約束をどう反古にできるのかをこそ、プーチンは真っ先に考えたはずだ。

安倍や世耕対露交渉担当大臣がいかにゴマを擦って下手に出て、すでに民間企業のロシアへの出資まで上乗せして経済協力をアピールしたところで、プーチンは得る者はどん欲に受け取りはしても、そんなことでなびきはしない。

…というよりも、日本が首脳会談で提案する「経済協力」に、すでに日本企業が自身の経営判断で進めているロシアでの事業やロシアへの出資まで勝手に含めて、いわば水増しした内容で交渉のテーブルに出すことは、ロシア側からみればあまりに見え透いて馬鹿げた欺瞞にしか見えない。

確かにウクライナとクリミアの問題で日本も含むG7各国による経済制裁を受けてはいても、経済が苦しいとは言ったってソ連崩壊後の混乱期とは比べ物にならないほど状態はいい。経済協力と引き換えに領土を、というほどにプーチン政権は追いつめられてなぞまったくいないし、強固なナショナリズムがこの政権の権力基盤となる圧倒的な支持率の基礎にある。そもそも、北方四島を今日本に返還するメリットがまったくない。

それどころか、ロシアには経済協力を申し出ながら、アメリカや他のG7諸国相手にも顔色をうかがい歩調を合わせて経済制裁を続けるという安倍政権の二枚舌外交は、相手国の不信しか買わない(というより、相手はプーチンである。こうも分かりやすい欺瞞は絶好の揚げ足取りのネタになる)ことに、日本側はなぜ気づけないのだろうか?

安倍のような「他人様のいない世界観」、相手国の立場や都合や主張を自分たちの側の都合で勝手にねじ曲げてしまう認識の歪みでは、外交なんてできるわけがない。

それに個人的な信頼関係を言うのなら、ゴルバチョフと海部俊樹、エリツィンと橋本龍太郎のいずれをとってもプーチンと安倍よりも遥かに深い信頼関係があった。

ゴルバチョフもエリツィンも政治的な理念や理想主義、誠実さを曲がりなりにも重んじる政治家ではあった(人間的に善良でもあった)が、プーチンとの「個人的な信頼関係」なんて夢想する方が間違っている(またプーチン自身がそういう悪辣な権力者であることを売りにして支持を集めてすらいる)し、こう言っては悪いが安倍氏は安倍氏でプーチンとまったく違った意味で「平気ですぐ嘘をつく政治家」ではないか。

プーチンのような考え抜かれた権謀術数ではなく、ただ行き当たりばったりに言葉に詰まって稚拙な嘘やデタラメを言い出してしまう、プーチンとは別の意味で信頼に値しない「噓つき」の安倍が、二枚舌の不誠実を相手に見透かされておいて、いまさら「信頼関係」もへったくれもない。

今までの流れを見る限り、噓つき政治家どうしの「個人的な信頼(なんてものが成立するなら、の話だが)」は、自分と自国の利益のためには平然と考え抜かれた嘘をつける能力があるプーチンに、無能なのにエゴが強いから苦し紛れに嘘を言ってしまったり、自分の誤摩化しの人気取りで平気で嘘を言ってしまえる安倍氏の二枚舌外交が見事に逆手に取られた、という結果にしかなりそうにない。

11月末にペルーで開催されたAPEC首脳会議での日露首脳会談の結果に、安倍首相が失望を隠せなかったことから、日本のメディアではアメリカ大統領選挙でプーチンを褒めていたドナルド・トランプが次期大統領と決まったことが、日本にとっては不利に働いた(米露関係の改善が望めるのだから日露関係が後回しになった)、とする分析が日本のメディアでは支配的だが、これも相当に眉唾な話だ。

というか、どうやったらこんな幼稚な与太話を真面目な顔で言えるのか、理解に苦しむ。 
日本側の失敗のいいわけにアメリカ大統領選挙を御都合主義で持ち出しているだけだ。

まずトランプ政権がどんな対ロシア外交の方針を打ち出すのかすら見えていない段階でそんな拙速な方向転換をするほど、プーチンは稚拙でうかつな政治家ではない。あまりに相手側の能力を見くびり過ぎ、相手の思惑を自分たちの都合だけで決めつけて誤解するのも、日本の外交が失敗するいつものパターンだ。

しかも安倍が「新しいアプローチ」を言い出した時点で、プーチン政権は色丹島や国後島の軍備の強化を発表していた。なのに日本側はこのことにすら、一切抗議していない。安倍は日本的な「配慮」でプーチンの好感を得たのつもりだったのかも知れないが、これでは相手側に「ナメられる」だけだ。

いやもちろん、日本の外務省だって、ここまで稚拙な判断の連続はさすがにしなかっただろう。

北方四島の問題を話題にすることで夏の参院選も睨んだ人気取りを計ろうという安倍首相に対し、外務省がそうは簡単にいかないことを警告くらいはしたはずなのは、とくに参院選後の内閣改造を見ても分かる。

なんと安倍の側近としても知られる世耕氏が、経済産業大臣だけでなく対ロ交渉の担当大臣にも就任し、外務大臣がやるべき交渉を勝手に進め続けてしまったのだ。これでプーチンに足下を見るなという方がおかしい。

つまり安倍は自分の妙に楽観的な希望的観測に当然ながら異を唱えた外務省を煙たがり、経産省と世耕大臣と官邸で日露交渉を進めることにして、あろうことか経験の蓄積がある外交のプロを排除して、自分の非常識で見事に自滅しただけではない、日本の国益を大いに損ねてしまったのだ。

もちろん日本の外務省だって確かにそれほど有能ではないのは、その通りだとは思う。政権によっては国民の利益を守るためには外務省を信頼するわけにはいかないのも、小泉純一郎政権が最初は外交機密費問題に切り込もうとして失敗したことや、鳩山由紀夫政権時に開示されたさまざまな密約を見ても、ある意味では当然の態度だ。

とはいえそれでも、外務省はまだ外交の専門家集団であり、安倍のようなただのド素人が傲慢にないがしろにしていいものではないし、現に安倍政権はこれまでも何度も外務省の進言や警告、意向を無視した独走の結果、外交的な失敗を繰り返している。

鳴り物入りで「河野談話の再検証」なる与太話を外務省の反対を押し切って私的諮問機関にやらせた結果、安倍は周辺諸国の不信感を買っただけで、「検証」の結果出て来たことといったら従来知られていた事実関係の再確認だけだった。

昨年のイスラム国による人質事件も、外務省が懸命に止めさせようとしたのに、安倍が勝手にカイロでの演説で「イスラム国と戦う国々に援助」という文言を入れてしまった結果起こったことだ。事件が表面化すると、特使としてアンマンに派遣した中山外務副大臣は、この種の交渉は絶対秘密裏で行わなければならないのが外交官の常識なのに、記者団相手のぶら下がり会見を毎日のように開催するという、政権の人気取りを優先しただけの非常識な行動に終始した。

昨年夏の、安倍首相肝いりの「明治の産業革命」の世界遺産登録も、外務省がせっかく韓国との交渉でまとめた話を、世界遺産会議が始まってから安倍首相が自分の身勝手で混乱させた結果、日本は全理事国の全会一致による懲罰的決議まで食らうはめになった。

米議会両院総会でのスピーチという名誉ある場でも、安倍はその内容を外務省にタッチさせず経産省出身の補佐官に書かせたデタラメな代物を読み上げた結果、日本の報道では隠されているもののアメリカのメディアは無視か批判だけに染まり、共和党の重鎮さえ非難声明を出すようなていたらくに陥った。

直近の例では、これも外務省の制止を無視して次期大統領に決まったドナルド・トランプに面会を頼み込み、TPPについて説得できたつもりだったのが、自信満々で行ったペルーのリマでの記者会見の直後に、トランプがTPPの即時離脱を宣言した経済政策ビデオを発表、大恥をかいたうえに、オバマ政権の不信も買ってしまってその誤摩化しに懸命になるあまり、真珠湾を訪問して謝罪外交に走ろうとしているのが現状だ。

日本はなぜ、外交上の失敗を繰り返すのか?

とりわけ安倍政権はその失敗の典型パターンのなかでも極端に稚拙な誤りを繰り返しながら、まったく反省も学習もないようだ。

外務省に限らず、日本人全般にはどうにもうまく認識できないことのようだが、外交は最低限でも相手国がいることであり、場合によっては無数の第三国の利害もからみ、複雑な状況下で高度の判断が要求される分野だ。

日本の外交はそれでなくとも、この相手国の利害や思惑を読み違える、というか自国の都合や主張の辻褄合わせに終始するだけで他国がその都合にあわせて動いてくれると思い込んだ「希望外交」の失敗や、国内世論に気を遣い過ぎた二枚舌の誤摩化しで動きが取れなくなるケースがあまりに多い。

だいたい、75年前の対米開戦こそがその典型だった。日本はアメリカが最後には妥協してくれると信じて強硬態度を貫き、結果最後通牒のハル・ノートを突きつけられたのだ。

尖閣諸島や竹島の領土問題でもこの種の失敗が繰り返されている。

というか、竹島に関しては民主党政権の野田首相が本気で国際司法裁判所に持ち込もうとして、外務省が慌てて止めて腰砕けになったこともある。つまり外務省は、実は日本の領有主張が国際的にはまったく通用しない理屈だと分かっていながら、国民の御機嫌取りのために虚勢のデタラメ領有権を国内向けに言い張っているのだ。

尖閣諸島をめぐっても、安倍の前の民主党政権で菅、野田の二代の首相が大変な失態を演じてしまっていながら、メディアも含めてそのことを国民に正直に言えないまま、安倍政権に入ってから日中関係を取り返しのつかないレベルで悪化させてしまった。

そうはいっても、これまでの日本の外交だって、安倍政権になってからの拙劣さに較べればまだマシ、と言わねばなるまい。

しかもこの総理ときたら外交で失敗しかしていないのに、メディアもまるで批判しないし、周囲でも誰も諌めないらしい。 
いやそれどころか、なまじ現実がそんなに甘くはないことを進言をしたばかりに外務省が排除されるハメになり、その結果が昨年暮れの慰安婦問題についての日韓合意(韓国に守る義務がなにもない空約束に10億払っただけ)のていたらくだったり、今回の日露首脳会談だったりするわけだ。

安倍首相は北方領土の旧住民に面会し、自分の世代でこの領土問題の決着をつけたい、と豪語したそうだ。なるほど、プーチンもこの際自分の代で決着をつけるつもりだ。つまり、このままでは、歯舞色丹まで含めてロシアの領有権が確定する、という結果になりかねない。

だいたい平和条約締結に伴う二島返還だけだったら、冷戦中はともかくその終了後には決着できたことだ。海部俊樹首相も、橋本龍太郎首相も、二島だけではなく四島一括でなければ許されない、という自民党自身が作って来た世論を尊重せざるを得なかったのだし、その後も交渉は膠着したままだったのだ。

もともと旧島民にしてみれば、島の帰属よりも自分たちが故郷に戻れるかどうかの方が重要だ。ソ連時代ならともかくロシアの時代ともなれば、ビザを取得して故郷を訪問することも本来ならできるし、居住も含めたビザの取得ですら、ロシア側はむしろ好意的に対応するだろう。

そして旧島民が故郷に住みたいと思うなら、突き詰めれば日本領だろうがロシアだろうが、そのこと自体は関係がない。戦後の三年間ほどは、択捉、国後、色丹の三島では、ロシア人と日本人が片寄せ合って生活して来た歴史もある。

旧島民が故郷に住むことが許されないのはあくまで日本政府の都合で、日本国民がロシアのビザで北方領土に入ることはロシアの主権・施政権を認めてしまうことになるから、として日本政府が禁じて来たことでしかない。

冷戦終結後の日ソ・日露交渉で、旧島民の墓参のための「ビザなし渡航」がまとまったのは、ソ連やロシアがビザを発行に難色を示したからであるかのように日本国内では誤解されているが、これはまったくの間違いだ。日本政府の都合で旧島民にビザが発行されることを日本側が拒否しているから、「ビザなし渡航」というずいぶんいびつなところで落ち着かざるを得なかっただけだ。 
安倍は今回、この「ビザなし渡航」の拡大もプーチンと交渉したいらしいのだが…。

なのにそこまで旧島民を我慢させて来たはずの主権と帰属の問題を、安倍は今回の日露首脳会談では議論せず、そこは曖昧なままに四島での経済協力まで持ちかけ、旧島民の訪問の機会を増やす交渉をするらしい。

ならば旧島民は今まで70年近く、なんのために我慢させられて来たというのか?

安倍が「避けて通った」つもりでも、プーチンから見れば安倍が四島の日本への帰属を強く主張しない限りは、四島に関するロシアの主権を容認したとみなして当然だ。むろん安倍がそんなつもりではないことは百も承知でも、安倍がはっきり言わない限りはプーチンがそう受け取るのが当たり前なのだ。

このままでは、70年近く待たされて来た旧島民こそいい面の皮だ。ここまで自分の国民、それも高齢の人たちを裏切り続けて、この総理大臣は恥ずかしいと思わないのだろうか?


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