最新作『無人地帯 No Man's Zone』(2012)
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12/11/2007

何を今更ながら、今更なニュース

昨日と今日、厚生労働省所轄のハナシで腹が立つニュースが二つ、二日連続であったわけだが、その一はもちろん、「消えた年金」の名寄せ作業についての発表である。

もっとも、これが「ニュース」かどうかもちょっと怪しい。だってこういう結果になることは分かってたでしょう? 舛添大臣は「ここまでズサンとは予想外」と驚いた演技をしていたが、演技じゃないとしたらこの男、よほどの阿呆ということになる。どっちにしろ国民の健康と生命の安全に責任を負う大臣としては不適任でしょう、どう考えたって。だって考えても見て下さい。もともと入力ミスで5000万件も持ち主不明の年金があったわけで、ズサンなのは最初から分かってるでしょ? ミスである以上ランダムなわけで、たまたま厚生労働省のコンピューターによる照合プログラムにひっかかるかどうかなんて、関係あるわけないでしょう? たまたまそのプログラミングにひっかかるミスが予想より少なかったからって、それはズサンかどうかの問題ではなく(で、ズサンなのは最初から分かってるわけで)、現実とはそういうものだ、というだけの話。

厚生労働ダイジン閣下は、東京大学とかいう超エリート校出身で、おフランスに留学までしておきながら、これくらい基礎的な不確定性をめぐる哲学的命題すら理解できないだろうか? ミスである以上ランダムなわけで、そのミスが人間がとりあえず予測できる範疇の規則性から逸脱していたからって、それは社会保険庁がズサンだったかどうかとは別問題。膨大なミスがあった以上は当然そのミスの性質を完全に網羅的に把握なんてできるわけがなく、従ってコンピューターで照合しきれないものがいくらあろうが驚くべきことでもない。最初から無理なのは分かってたはずだ。で、最初から無理じゃないんですかと野党に追求されるたびに、「内閣総理大臣がお約束しているのだから」などと大見栄を切ったのはどこの誰でしょう? その時点で「こいつらバカじゃないの?」と、まともな国民はみんな気がついてますよ。

政治的に問題なのは、その程度のことも考える能力もなく公約として「来年三月まで」「今年度内」と強弁してしまった政治家の無能さだ。現に誰も信用しなかったから自民党は参議院選挙で惨敗したわけだが、あまり人をバカにして欲しくないものである。現実に無理なものは現実に無理なわけで、なんの保証もないうつろな熱意だけ強弁して時間を浪費しているヒマがあるなら、そもそも照合が完全には不可能であるという前提に立ってどういう解決法、つまりどうやったら払った人がちゃんと年金を受け取れるかどうかを、とっとと議論するべきだったはずだ。それこそが政治家の仕事というものだし、残ってる限りでも紙台帳をチェックするとか、とっととやるべきだったことはあるでしょう?

もうひとつ、より腹が立つのは、C型肝炎薬害問題だ。まず真っ先に、常識として指摘しておくべきなのは、C型肝炎は輸血や血液製剤で他人の血液内にいるウィルスが体内に入ってこない限り、感染するわけがないということ。麻薬の注射などの日本では極めて可能性が低いケース以外は、つまり圧倒的多数のC型肝炎感染者は、すべて医療ミスか薬害、あるいはその両方の被害者なのだ。

昨日『TVタックル』に出ていた厚生労働副大臣だかの自民党の見るからに頭の悪い若手がその程度の常識も分かってないとしか思えないアホなことを連発していたのではっきり言っておくが、日本の場合は、麻薬などの注射で感染するということはまずない。だいいちC型肝炎は圧倒的に女性患者、それも中流の、主婦を始め、母親/出産体験者が多い。出産や、流産のときの止血剤で感染したと考えるのが可能性としてはまずもっとも合理的であり、その止血剤に認可を出しているのは厚生省であり、その安全性に責任を持っていたはずなのは日本国なのである。

法的な責任の確定にはカルテなどの証拠が必要になるし、政府/製薬会社/医師が危険性を認識していたことが明確であったほうがよりはっきりする。でもそれって、裁判で法的に有罪になるかどうかで言えば、故意つまり危険性を認識しながらその薬を使ったのだったら、定義上は殺人罪になったっておかしくない話ですよ。致死性の毒物である可能性があるものを他人の体内に入れるって、それって普通の日本語では「毒殺」と言います。

で、政府がなんとか補償する人数を制限しようとして出している理屈、東京地裁判決というのは、要するに政府および厚生労働省を加害者の共犯とする殺人未遂の要件がほぼ疑問の余地なく成立するケースに限って、ということでしかない。今の一連の裁判などの闘争では話題にものぼってないが、輸血や血液製剤によるC型肝炎感染の危険性が認識される以前の感染だって、それ自体は医療行為が原因であり、つまり薬害であり医療ミスであることには変わりがないのだ。

もちろん医療の問題であり人間の科学的知識に限界がある以上、普通なら立派に「業務上過失傷害、ないし致死」が成立しうる「知らなかった」に関してまで確定的な法的責任は問わない方がいいだろう、そうでないと医学の進歩が大いに制約される可能性があるというわけだが、どっちにしろそれ以外に見逃すべき法的・政治的・倫理的理由なんて皆無だ。でもね、まだ血液製剤による感染リスクが認識されておらず、むしろ革命的な薬として重用されていた時代のことなので、法的な責任を問い始めると医学の進歩自体を止めてしまう危険があるとはいえ、「知らなかった」としてもそれなら知らなかったこと、つまり医師や医療従事者、医療を統括する役人として無能であったことに道義的責任くらいは感じてしかるべきだろう。そういうときのための政治解決じゃないの?

しかも、まったく同じことが十数年前には血友病患者のHIV感染として告発されているのである。その時点で、素人ならともかく、厚生省のお役人ぐらいは、高い給料をとっているプロなんだから、HIV感染が起っているのなら肝炎ウィルスに感染している可能性だってあることは、当然気がついておくべきことだったはずだ。少なくとも気がつかなかった自らの不明ぐらいはちゃんと自覚して欲しい。前総理が大好きだった「美しい国ニッポン」にひっかけていえば、正しい日本的な倫理観を遵守すれば、それだけで辞表を提出するのに十分な責任を感じるべき問題であり、武士道の倫理にのっとれば腹を切ってもおかしくない話だ。

それを投与された患者400余名の名簿があったのを隠蔽して「忘れて放置してました」とシラは切ってみせるわ、名簿が出て来ても今度はプライバシーを逆手にとった屁理屈で通知はしないわで、なにが許せないって、感染している可能性を通知すればそれなりの検査はうけ、重度の肝炎になる前にしかるべき治療を受けることだって出来たはずなのだ。厚生省(現厚生労働省)の仕事は国民の健康を守ることなのだから、非加熱の血液製剤が肝炎ウィルス感染の原因になっている可能性に気づいた時点で(ということは、遅くとも80年代には)、輸血や血液製剤の止血剤を使った可能性のある人はとりあえず検診を受けなさい、くらい呼びかけてしかるべきだったのだ。肝炎はインターフェロンの前だって治療を受ければ進行を遅くする事ぐらいは出来たし、今では肝硬変とかガンにまで進行していなければ、インターフェロンを使えば十分に直る病気なんだから。「なんで早く知らせなかったの?」 それだけでも厚生労働省には途方もない責任があることぐらい、少しは自覚してもらいたい。

まして認可を与えている薬なんだから…。まともな精神をもっていれば大阪地裁の和解案なんて待たずに、それなりの政治責任と、せめて謝るくらいのことは、ちゃんとやってしかるべきなんですが。そうでなくてなんのための政治ですか?

今回の一連の裁判で原告になっている人たちが訴えている時点で、科学的な知識としては非加熱製剤が危険だということは分かっていた。 「C型肝炎ウィルス」という病原体の特定はまだでも(当時はまだ非A非B型肝炎、と呼んでいた)、輸血や血液製剤投与で肝炎ウィルスに感染することは分かっていたし、その数年後にはインターフェロンの実用化が始まり、東京都などの自治体では治療について財政的援助もしていた。今訴えている感染者の人々は、そもそも厚生省がミドリ十字の接待癒着で怠けてなければ投薬自体されていなかった可能性が高い人だし、仮に感染しても「感染してるかも知れないから検査を受けて下さい」と言われていれば、そこまで苦しむこともなくインターフェロン治療を受けられ、うまく薬が効けば完治していたかもしれないのだ。それだけでも福田首相がとっとと「政治決断」を下すのは理の当然だと思う。

カネがかかる? ならまず厚生労働省の、少なくとも80年代半ば以降にすでに在職していた役人の給料は全部半額カットにして、それでも充当すればいいんじゃない? 少なくともインド洋に無料ガソリンスタンドを残すかどうかよりもよっぽどニッポン国民の生命の安全に関わる優先事項だと思うが。

蛇足だが、OECDの学力調査で、「日本の子どもは科学ができない」という衝撃の結果が文部科学省あたりを騒然とさせているらしい。いやでもねぇ…。ごく基礎的な科学的思考ができれば、C型肝炎ウィルスの感染がこと日本の、それも圧倒的に多い女性患者では、出産や、流産のときの止血剤で感染したと考えるのが可能性としてはまずもっとも合理的というのは、すぐに思いつくことですよ…。だって「肝炎ウィルスに感染」という事実についての感染経路を推測すれば、輸血ないし血液製剤というのが、中学生レベルにおいては当然の科学的な推論なんですから。

さらに蛇足だが、5000万件の持ち主不明年金について、照合できないものが4割あったからといって「そりゃ大変だ」とは思いつつも特段驚きもせず、「そりゃミスで入力されたものがそう簡単に特定できるわけがない」と思うもの、これまた当たり前の中学生レベルの科学的発想。その程度のことも気づかないで理科の成績が上がるわけがない。

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