最新作『無人地帯 No Man's Zone』(2012)
〜福島第一原発事故、失われゆく風景、そこに生きて来た人々〜
第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品作品
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3/26/2011

福島第一原発では何が起っているのか?

今や我が国最大のニュースであり、内閣官房長官がときには一時間おきに、毎日何度も記者会見してはそれが生中継され、テレビでも新聞でもネットでも、膨大な時間がその報道に当てられている。

だというのに、これほど何が起っているのかが分かりにくい事件もない。

原子力がどれだけ複雑なものとはいえ、この分かりにくさは異常である。

なにしろ事故だというのに、なぜ事故が起きたのか、その原因と結果がまるで説明されていないのだ。

いや実は官房長官の記者会見などで言及していないわけではない。ところが会見している本人がよく分かってないのか、その肝心なところが決して分かり易く強調もされず、詳しい説明もない。

どれだけ原子力が複雑な科学技術だとは言っても、実をいえば原因も、ではどう解決するのかも、基本は単純なものだ。

電気が止まって壊れてしまった機械がある。ならばそれを直すには、まず電気を通すこと、ただそれだけである。

原子炉は地震があると安全のため自動停止する。

福島の原発は地震で止まっていたのだ。これは止まってるから起きた事故なのだ−というこの基本が、まずよく伝わってない。

止まっている、つまり電気を作っていない原子炉には、精密な電気機構でもあるのだから、維持するために外から電気を供給する必要がある。

ただ電源オフで「はい止まりました」というわけにはいかない。発電はしていなくても、原子炉のなかの核燃料には、二千度以上というすさまじい熱が残ってる。これを冷やさないと完全には止まらないのだ。

福島第一原発の原子炉では、核燃料が核分裂で出す熱で水を水蒸気にして、その蒸気でタービンを廻す。逆に言えば核燃料から熱を奪う、つまりは冷やすのも、水だ。その水が足りない。

100度で沸騰し気化するのが水なのだから(もっとも、原子炉の中は高圧なので1気圧での沸点の100度とは多少ずれる)、原子炉を止めた後でも冷やすためには、多量の水を常に注いでやらなければならない。

つまり、こういうことだ。

1) 水をくみ上げて原子炉に注ぐポンプを動かす電源がなくなってしまった。だから二千度以上ある核燃料を冷やす水が蒸発して足りなくなり、水で覆われているはずの炉心が露出してしまっている。

2) 同時に、原子炉を管理するためのデータをとる計測機器の電源も、なくなった。つまりは得られるデータが極端に限られていることが、なぜか明言されない。停電してるから当たり前といえば当たり前なんだけど。

3) 止めた原子炉のなかである程度、一千度くらいまで冷やした使用済みの核燃料をさらに冷ますプールが、原子炉の斜め上にある。ここに水を供給して循環させるポンプも、電源がないので止まった。

4) 配管や、原子炉を格納してる容器の一部に亀裂などがあるかも知れず(その破損箇所は未確認)、本来なら原子炉のシステムのなかで水蒸気→水と還流していなければならないはずが、水が漏れ出している。

この4点が、今回の事故で起っていることである。

どうです?簡単な話でしょう?

なぜこんな単純なことを理解するのに、官房長官の会見のあと必死でそこで言っていた内容を考え抜かないといけないのだろう?

説明があまりに下手というか、順序立てた筋道がないのだ。

ではなぜ電源がなくなったのか?もちろん地震と津波、とくに推定14mの大津波のせいなのだが、これについての説明は、本当によく分からない。あまりに発表がしっかりしていない。これこそがそもそもの事故原因なのに。

原子炉には運転を止めたあとに必要な電気を供給するため、ディーゼル発電機がある。ところがこのための燃料タンクがどうも海側の一段低いところにあったそうで、津波にあっけなくさらわれてしまった。

津波はさらに原子炉の入ってる建物に到達し、その地下にある発電機自体も、塩水に浸かった。だから発電機が使えずに、非常用のバッテリーも8時間ぶんしかない。

というわけでこの事態だ。

原子炉のなかで本来水に覆われてなければならない核燃料がむき出しになり、冷ます水がないので高熱で溶け出す、いわゆる炉心融解の状態になったのも、ポンプが止まって水が供給されず、高熱で蒸発してしまったからだ。そしてその熱(崩壊熱という)で壊れて解けている核燃料(1、2、4号炉はウラン、3号炉はプルトニウム混合)が分解し、大量の放射性物質が産まれ、それが拡散しているのも、それぞれに大変な事象ではあるのだが、原因はぜんぶごく単純に、冷やすために必要な電気が断たれてしまったからだ。

原子炉の斜め上の使用済み燃料のプールでも、電気がないので水を供給したり循環させるポンプが止まり、水がどんどん蒸発するばかりで、そこから放射性物質が拡散している。

各地で観測されている放射線の量は、たぶんこっちから飛散した放射性物質の方が多いと思われる。原子炉の方は圧力容器と格納容器は、まだあるので。

(ただ一昨日見つかった水溜りがなんなのかによっては、原子炉の方に壊れたところがある可能性も否定はできない。ただその原因はまだ分からない。3/29加筆:3号炉だけでなく1号2号にも同様の水たまりがあり、2号炉は格納容器のいちばん下の部分である圧力制御室からの水漏れである可能性が大きい。1、3号は不明。

あれ? じゃあ、あの爆発はなんなの?

さっきの1)として起きていることの結果、原子炉の中では燃料棒が水が足りずに露出した際、その覆いに使われていた金属が酸化して、高熱の水蒸気になった水(なにしろ炉心の温度は二千度を軽く超える)の酸素が奪われて水素が分解、それが爆発したのだ。

水が水素と酸素に分解されるのは中学校の化学で習うことだが、専門家でさえ予測できなかった。

今までこんな事故はなかったのだからしょうがないのかも知れないが、しかしそうは言っても、なんだかんだ言ったところで、中学校の化学で習うレベルの話でしかない。

大学教授だとかの専門家がこの中学の理科程度の話に、つい気がつかなかったりする。でも事故とはそういうもの、人間の知識なんて、しょせんそんなものなのだ。

また2号炉では、水位が随分下がってしまって、一時期まったく水での冷却が出来ずに空焚きになったかも知れず、あと格納容器のいちばん下の部分の、水を溜めて圧力を調整する部分に、亀裂かなにかが入ってる可能性がある。その理由はよく分からないが、まあ地震もあったのだし…。つまり水が漏れている。

なによりやっかいなのは、原子炉のなかは決して見えない、放射性物質の拡散を防ぐ格納容器の中に入って人間が目視なんて出来ないのに、停電で計器が全部止まってる。つまり内部の正確なデータがとれない。

以上が今、福島第一原発の4つの原子炉で起っていることだ。

地震で止まった→冷やさなければならない→冷やすための電源が津波のせいで停電→いろんなトラブルが起る。

どうです、簡単でしょう?

ところが記者会見でも、報道でも、そもそもの原因(停電)ではなくて、その結果として起る様々な事象(炉心の損傷・融解とそこから発する放射線、燃料プールからの水の蒸発、その両方からの放射性物質を含む蒸気の拡散、水素の発生と水素爆発)の詳細ばかり言ってるから、普通に聞いていると、わけが分からなくなる。

確かにそれぞれの事象が重大な危機なので、そこを報じるのは人間の都合からすれば分かる。

だが人間が「事故」と呼んでいるのは物理現象に過ぎない(一部は化学現象)わけで、物理現象は原因を説明しないと、筋道立てての理解ができなくなっても、当然なのだ。

何が原因かが伝わってないから、どうやって対処してるのかもよく分からなくなる。個別の事象への応急処置ばかりが大きく報じられ、全体の計画が見えないまま、もう二週間である。

まったく、毎日毎日会見しながら、官房長官はなにをやってるのか?記者たちはそれを毎日聞きながら、どこが分かりにくいのかも分かってないまま、質問もしないのか?

停電が原因で、電気がないから冷却がうまく行かないで事故になったのなら、解決する手段自体は簡単にわかる−再び電気を通して、原子炉本来に付随する、冷やすための機械を、再び動かせるようにすればいいのだ。

実はこれこそが最初からやっていることで、官房長官記者会見でも、よく聞けば確かに言ってはいたことなのだ。かくいうこのブログの情報源は、海外ソースでもなんでもなく、ひたすら官房長官などの会見である。

東北電力の送電線から線を延ばして電力をつなごうとしていることも、実は最初からちゃんと言及はされていた。

ところがこの肝心な部分が伝わらないのは、発表してる本人がその意味がよく分かっておらず、記者たちもまたよく分かってないのだろう。

その大きな流れの説明の変わりに、結果は重大でもそもそもが停電の結果起きた付随事象に過ぎない炉心の融解が、スリーマイル島事故でおなじみのメルトダウン(解けた炉心が原子炉の中で落下して原子炉そのものが壊れること。福島はメルトはしていてもまだ本格的にダウンはしていない模様だ)という恐怖の言葉とともに強調され、ではそれへの応急処置として、真水が間に合わないので海水を注入するかどうかが、なぜ水を注入するのかの説明もよくわからないままに、事故の初期にはひたすら強調された。

説明に、こういうことが起ってるからこういう結果になり、だからこうしますというような、筋が通ってないのだ。

さらに物理学で理解すべき話に、なぜか政治が介入し、科学技術の話がいつのまにか政治にすり替わる。それも政治のなかでも低レベルな、ためにする批判と脚の引っ張り合いと袋だたきに。

真水が間に合わないので海水を入れるべきかどうかで1日が過ぎたのだが、これで政府と東京電力が批判される。

真水を使う設計のポンプやパイプや原子炉に塩水を通せば、錆びて腐食する等の危険がある。

はっきり言えば、海水を使えば、原子炉はやがて使い物にならなくなる。

つまり自社の財産でもある原子炉が使えなくなる決断を渋る東京電力はけしからん、ケチで事故の重大性が分かってない、そもそも誰の責任で起きた事故なんだ、という話になり、政府の英断で海水注入を決めることで、政府が点数を稼ぐ。

…というところで、ちょっと待って欲しい。

東電に、自社の財産でもある原子炉を温存したい動機もあったのかどうかは分からないが、それ以前に科学技術の問題でだけ考えれば、真水を使う設計のポンプやパイプや原子炉に海水を通していいのか、まともな技術者なら絶対に躊躇するだろう。

設計で想定してないことをやって錆びたり腐食したり溶解物が結晶したりするリスクは、出来ることなら誰だって避けたい。

海水を注入して三日とか一週間とかひと月で一件落着ならいい。でもこれはあくまで、原子炉本来の冷却サイクルを回復する工事のための時間稼ぎだ。そしてその冷却のプロセスは、1年くらいはかかることなのだから。

ところが海水を使う決断を出来ない東電はけしからん、というわけで喧々囂々の猛批判である。

今日になって3号炉は真水の注入に切り替え、心配したアメリカが海軍横須賀基地で作った真水を提供する手はずもととのった。というかいつのまにか、近隣のダムから真水を得る手はずも出来ていたらしい。おや、これもまったく知らなかった。早く言ってくれれば安心できる情報なのに。

自衛隊や警視庁機動隊、東京、横浜、大阪の各消防局が担当する放水ももっと分かりにくいまま、東京消防庁が隊員にセンチメンタルたっぷりな記者会見をやってマスコミと世論相手に点数を稼ぎ、再選を控える都知事が涙ながらに彼らを讃え…でもなんのための放水なのかは、さっぱり理解されていない。

田原総一朗氏のような著名ジャーナリストまで、炉心を冷まして爆発を避けるための放水だと思ってるらしい。

おいおい、原子炉は格納容器のなかの圧力容器のなかで、水がそこまで届くわけがありませんってば。そっちの対処は、海水(今日から真水に切り替え)の注水!

放水はあくまで、もうひとつの大きな不具合であり、放射性物質の拡散の点ではもっと大きな問題(原子炉は格納容器のなかの圧力容器のなかだから、そこまで放出はしないはずだ)である、使用済みの核燃料の保存プールのためだ。

水素爆発で壁や天井が吹き飛んでるので、直接そこに放水できるのだ。

まったく、冷静に考えれば子供にも分かる話だし、こればっかりは何度も何度も、政府はそのように説明している。

ところが今度はマスコミの側がまったく分かっていないので、あらぬ誤解を振りまく。挙げ句に広瀬隆のようないい加減な人間が、「炉心に放水しても意味はない」って、最初からそんなことやってないの!

かくして理由がよく理解もされていないままの活動が、官房長官など政府機関の会見でも、マスコミの報道でも、見た目が派手で話題性はあるだけで注目を集め、しかし事故の対処の中ではあくまで時間稼ぎに過ぎない話でしかないのにそこばかり情報が拡散し、ますますわけが分からなくなる。

事故の対処計画の本筋は、あくまで停電している原子炉の機構に再び電源をつないで、冷却するための本来の機能を、回復することなのだ。

そして今やっと、それぞれの原子炉に電気が届くまでは出来た。

これからはそれぞれの機材にその電気を通して、壊れている機材は交換・修理し、原子炉本来の冷却の機能を取り戻さなければならない。

…と、なぜ政府は、このように分かり易く説明しようとすらしないのだろう?

実は政治家たちも官僚たちも、よく分からないままに知ったかぶりをしているだけなのか?

自分たちそれぞれの組織の、マスコミ世論相手の点数稼ぎにしか興味がないのか? 責任逃れなのか?

そのマスコミ世論の方も、負けず劣らず、中学生の理科でも分かる部分を、そもそも理解しようとも、ちゃんと説明しようともして来ていない。

電源の供給がやっとちゃんと報道されるようになったのは、震災と津波と事故の発生から10日くらい経ってやっとだ。そして中央制御室に通電して明かりが灯って、それでやっと中央制御室が止まってたことが言及されるようになった次第だ。

まったく馬鹿げている。いかに政治家が発表し、政治記者が会見を聞いていても、事故はあくまで物理現象が人間の思い通りに進まなくなっただけで、それへの対処はあくまで、科学技術上の判断なのだ。

この騒動でふたつだけはっきりと、それはもう恐ろしく分かり易く、分かって来たことがある。

まず原子力が、ちょっとしたミスや、判断の狂い、予想を越えた天災があるだけで、その失敗をカバーするのが不可能なまでに暴走するほどに、やはり怖いものであるということ。

そしてもうひとつ、この国がそんなおっかないエネルギーを用いて繁栄を享受するには、あらゆるレベルであまりに民度が低過ぎるということだ。

だからもうこの危険な玩具から手を引くことこそが、とりあえずまっとうな判断なんだと、政治の問題は一切抜きに、僕は心から思っている次第である。

我々はあまりに傲慢過ぎたのだ。

8 件のコメント:

  1. 匿名3/27/2011

    シンプルな説明ですね。ありがとうございます。

    でもそれでもわからない理由は、現段階が「既に手遅れなのか、リカバリー可能なのか」わからないから。だって核物質ですよ。そう聞いたら日本人は落ち着いていらせません。

    そこの説明も必要だと思います。

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  2. 匿名3/27/2011

    同感です!

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  3. 追記:海水を使うことは、原子炉は中性子を発するので、真水だと水分子だけだからそれを前提に設計していて、ホウ酸を混入してその中性子線を押さえられるのが、海水は不純物が多いのでその分子に中性子が当たってしまうという危険もあるそうです。

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  4. 「既に手遅れなのか、リカバリー可能なのか」を見極めるためには、結局のところ中央制御室の機能を回復させるしかありません。今出ている極めて限定的なデータで見る限りは、可能です。ただしそのデータの意味するところを特定するためのデータが、停電で計器が動いていない現状では、足りないのです。原子力とはそういうものです。最初からそれは分かり切ったことであり、不安になろうがなにをしようが、変わりはありません。

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  5. 水素爆発の原因となる水素の発生は、被覆材であるジルコニウム合金が高温の水蒸気に晒されることによる酸化ですね。酸素との結合力が水素分子よりも高い金属は水分子から酸素原子を奪います。H2OからOを奪えば、残ったものは水素ですね。高温の水蒸気が酸素と水素に分離することはあり得ますが、プラズマクラスの温度なので、今回はそこまで高温化はしていいまいかと。一応補足です。

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  6. 3/28日深夜に、周辺の土からプルトニウムが微量に検出されたことが発表された。…と言うと事態が急変したように思われるが、これは3/21だったかに採取されたサンプルの分析結果。微量だし流出経路の確定は難しいが、3号炉の使用済み燃料保存プール周辺の火災と関係するのかも知れず、水素爆発があった際に1号か3号の使用済み燃料保存プールあたりから飛散したのかも知れず、また原子炉から水蒸気を抜く際に出た可能性も、と言ったところ。プルトニウムは三号炉のウラン/プルトニウム混合燃料からだけでなく、核分裂反応ではウランからプルトニウムが出るので、どの炉から出たものでもおかしくはないのだろう。実はそんなに大騒ぎすることでもない、想定の範囲内。

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  8. 捕足・訂正。水素爆発について、米在住の作家冷泉彰彦氏のメルマガより転載です。
    「8日の夜に安全・保安院から「1号機、3号機の水素爆発は想定外」という発言があったようです。ですが、アメリカの専門家によればGEのこのタイプの炉では、「最悪の場合はベントを建屋内」に行って圧力容器の水蒸気爆発を防止するのは仕様のようです。何故「建屋内」にベントするのかというと、放射性物質をいきなり外気に放出はしたくないからであり、にもかかわらず建屋内での水素濃度が上がって爆発する際には、わざと格納容器を守っている建屋のコンクリ構造を上三分の一だけ「鉄骨と薄い板」にしてあるので、そこが壊れることで爆発の衝撃波を吸収して建屋の下半分を守る、それも設計上の仕様だというのです。
     これは、スタンフォード大学のCISAC(国際安全保障協力センター)の客員で、仏アレヴァ社系列の燃料処理企業の現役の幹部、また元IAEAの研究員であったアラン・ハンセン氏がハッキリそう発言しており、同氏の示したスライドでは、そのプロセスが図示されています。またCNNが3号機の水素爆発を「中継」していた際に、宮城県で恐怖感にかられていたキャスターのアンダーソン・クーパーに対して、リアルタイムでMIT=SSP(マサチューセッツ工科大学、セキュリティ研究プログラム)のジム・ウォルシュ研究員が「大丈夫、それは水素爆発だから、それは起きるように設計されているのだから」と発言しています。」
     http://ryumurakami.jmm.co.jp/

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