最新作『無人地帯 No Man's Zone』(2012)
〜福島第一原発事故、失われゆく風景、そこに生きて来た人々〜
第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品作品

1/21/2009

Barack Hussain Obama, January 20th, 2009

ついつい徹夜で生中継を見てしまった就任式。テッド・ケネディ上院議員が議会昼食会の最中に倒れるという心配なハプニングはあったものの、就任式は「演説の名手」ということである程度は期待はしてた予想以上に、見事な演説でした。

就任演説全文
http://www.whitehouse.gov/blog/inaugural-address/



abc撮影のビデオ

http://abcnews.go.com/Politics/Inauguration/story?id=6689022&page=1


強いて言うと、ジョン・F・ケネディの「国が自分のためになにをしてくれるかではなく…」というような単一のキャッチフレーズが目立つ演説ではなく、そこらじゅうに名文句が連なっているので、代表的な名文だけで記憶されるというのが難しいのが問題だろうか。ケネディ演説はこの名言以外はあんがいたいしたことのない演説だったりするのだが、今回のオバマ演説は全体が非常によく出来上がっている。

しかも就任式のお祭りとは思えないほど冷静な現状分析で、アメリカ社会全体に対する厳しい批判も随所に織り交ぜ、現在の経済危機の原因を「一部の強欲と無責任さだけでなく、我々全体が難しい選択をできなかったが故の失敗」と明言。とりあげている話題だけみれば悲壮感が漂ってもおかしくないほど暗い中身で、過剰なまでの支持と期待を巧妙にかわしながら、それでいてなぜか非常に楽観的な印象を与える演説になってしまっているのだ。

こちらのネット投票でも、圧倒的に希望を感じている模様だし、否定派も「depressing」、「暗い、気が滅入る」という評価が一割弱で、中身自体の批判はゼロパーセントなのもおもしろい。字面だけ読んだらこれってかなり気が滅入りますよ。言うべきことはきっちりと言っておきながらかえって国民を鼓舞できるって、けっこうしたたかな戦略家のタヌキかも知れない、この一見爽やかな顔した初の黒人大統領は。少なくとも知的であることは、演説を見れば一目瞭然だが。

演説に先立つ就任の宣誓では、緊張してちょっと焦ったのか、自分が繰り返す番が来る前に「I, Barack Hussain Obama」とフライングしちゃったり、そしたら宣誓を担当する連邦最高裁長官の方も文言を間違えちゃったり、そこでニコっと笑って好感度アップ、夫人がそれを暖かく見守る目線でさらに好感度アップというのも、ぜんぶ演出だったりして。そういう演出で、相当に厳しい現状認識だらけの演説をアメリカ国民がそれでも「希望」として受け止める素地を作っていたのか。それとも本当に修辞に走らず真っ正直だったから成功したのであって、僕がひねくれ過ぎているだけだったりして(それはそれであり得る…)。

日本のいわゆる「アメリカに詳しい」知識人とかはいささかオバマ政権に懐疑的というかあんまり喜んでおらず、政府や経済人などの権力側に至っては民主党政権だと日米安保に依存した共和党とのコネみたいなものがない、すわ「ジャパン・パッシング」、中国が重視されて日本はアメリカ様のお目もじも構わなくなるんじゃないか、と慌てふためいている論調が目立ち、我々のような一般人がまずはオバマ氏の大統領就任を素直に歓迎しているのとは対照的だ。

知識人となると人間としての直感的反応を意思表示するのははばかられるのかも知れないけれど、だってあのアメリカ合衆国でついに非白人の大統領って、それだけでもどれだけ大きなことか、やはり非白人の日本人だって嬉しくないはずがないではないか。

ついこないだまで、我々だってアメリカに行けばそりゃ差別されてるのを感じてムカつくことはしょっちゅうだし、日本にいて白人のガイジンと仕事でつきあったりしたらもっとそう感じるし、白人上位の構図を受け入れてしまう自分に腹が立つことだってあるだろう。そういう感情を押し殺して日本人の特徴とされる曖昧な微笑みを顔にベッタリ貼付けて耐え抜くことも、多いかも知れない。

僕自身が10数年前に住んでいて、以来ずっとなんらかの関わりを持ち続けて来た国のことだからより強くそう思うのかも知れないけれど、そんな我々日本人にとってすれば、黒人のオバマ氏が、それも空前の支持率でアメリカ合衆国大統領、初の非白人大統領って、そのこと自体はやっぱり文句なしに嬉しいのが自然じゃないだろうか? オバマ氏が今後、どのような方向にアメリカ合衆国を導き、それが世界やわがニッポン国の運命をどう左右するかはともかく、なんだかんだ言ってもまだまだ白人上位・白人支配の現代世界の構図からすれば、いきなり黒人のアメリカ大統領ということ自体が、素晴らしいチェンジだとは素直に喜びたいところだ。

就任演説のなかでも、「変わりゆく世界のなかで我々アメリカ人も変わらないければならない、自分たちが何者なのかに立ち戻り強い意志で世界に貢献するアメリカを再建しなければならない」というような言葉が繰り返されているのだが、確かに黒人の大統領が出て来るようになっただけでも、アメリカが少しは正しい方向へと変わりつつあることだけは確かだ。そのチェンジ自体はやはり祝福してしかるべきことだと思うし、オバマ氏が今後思ったような成果をあげられないとしても、彼が大統領になるような国にアメリカが変わったことだけは、明らかに「いいこと」だと思う。ご本人が率直に繰り返したように困難山積みの現状を前に、まだまだ今後どうなるかはお手並み拝見だが、イラク撤退とグアンタナモ閉鎖は大賛成、核廃絶を最終目標にした軍縮を唱えるのも被爆国として歓迎だし、ただアフガンについての公約は考え直して欲しいけど…。

とりあえず、演説は本当にうまい。だいたい今まで頭に来るほど傲慢だったアメリカ白人エリートたちが、今やオバマ氏の知性にひれ伏しているように見えるのも、なんだか痛快。

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