最新作『無人地帯 No Man's Zone』(2012)
〜福島第一原発事故、失われゆく風景、そこに生きて来た人々〜
第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品作品

8/10/2009

『フェンス』ソウルのデジタル映画祭で上映


『フェンス 第一部 失楽園/第二部 断絶された地層』が、シネマ・デジタル・ソウル映画祭2009コンペティション部門で上映されます。

撮影監督 大津幸四郎
 (撮影助手 辻井潔 色彩監修 加藤孝信)
音響監督 久保田幸雄
 (現場録音 安岡卓治 松林要樹 ダビングミキサー 山縣良一)
監督/編集 藤原敏史
 (演出部 松林要樹 香取勇進)
プロデューサー 安岡卓治 藤原敏史

製作 安岡フィルムズ、羅針盤映画 製作協力 逗子市


出演:旧・池子村より
    岸田恵治 相川キサ 林清明 林武子 生井志郎
  旧・柏原村より
   鈴木千枝 鈴木久彌

  米軍施設に隣接する逗子市立久木中学校より
   宮田位里 治田みずき 友井渚彩
  郷土史家 篠田健三
  三浦半島の自然の研究者 金田正人
  元・逗子市長 澤 光代
  大工 横尾直樹

  池子米海軍家族住宅の住人たち
  池子遺跡群資料館の職員の方々
  逗子市池子および久木町のみなさん

2008年/日本映画/デジタル(HDCAM、HDV i60)/カラー/ステレオ/第一部 83分、第二部 84分

日本映画の海外振興や合作を支援するJ-Pithのサイトの解説では…

<解説>総面積の15%が米海軍住宅、人口5万人のうち5,000人が米軍とその家族である逗子市。監督は、フェンスに囲まれたその池子の米軍住宅地を外から見つめる日本人を撮る。70年前に帝国海軍の命で古来の家と土地を明け渡した人たちである。逗子市企画の短篇を出発点に、先祖代々をこの地に刻んだ彼らの戦後と現在を通して、日本の現代史を考える。『映画は生きものの記録である 土本典昭の仕事』(2007)の藤原敏史監督による野心作。

あと公式発表はまだのようですが、10月には山形国際ドキュメンタリー映画祭にも出品が決まったようです。



ところでこの映画のもともとの発注主(って逗子市の企画のPR映画から始まった映画なので)、当時の逗子市長・長島一由氏が、衆議院神奈川4区で民主党から出馬するそうです。ところが民主党参議院議員で「影の内閣」防衛大臣だった浅尾慶一郎氏が衆院での鞍替え出馬を表明して民主党を離党、民主党にとってはいわば分裂選挙で大変なことになっている模様。

逗子市立久木中学校運動場に隣接する米軍管理区域のフェンスの前で

波風を立てるのが特技の映画作家で、類は友を呼ぶというわけでこうなるのかどうか分かりませんが…。浅尾氏の専門がこれまた安全保障なので、池子米軍住宅についてどう考えているのか、対米関係、具体的には思いやり予算2700億円(平成19年度)についてどうするのか、一方でアメリカでの政権交代に伴う政策転換、核兵器廃絶に日本がどうイニシアティブをとるべきなのか、双方がどう考えてるのかをもっと具体的に知らなければいけないところですが、しかしなんだか複雑な気分では、ある。

     元・逗子市長 澤 光代

折しも、『フェンス』の製作中には逗子市が国と法廷闘争やってた米軍住宅の増設問題は、現市長が国との話し合いで増設に応ずることを表明。せめて政権交代まで待てなかったのだろうか? もっとも、民主党も小沢が党首でなくなると、日米関係の日本隷属体制を変えようという話にはなかなか行かないような気もして、あまり期待はできないのだろうけど…。

  久木中学校運動場に隣接するアメリカ海軍管理区域(旧・柏原村)

僕自身はあまりナショナリストではない方だが、しかしこの日米関係って、アメリカ様に「守って」もらうために日本人が日本人であることを売り渡しているような気分になってなんとも不快ではある。『フェンス』というのは一面、そういう映画でもあるのだが−−戦前の海軍弾薬庫、戦後の米軍弾薬庫、そして米軍住宅と、ニッポン国はアメリカにニッポンの、いったいなにを守ってもらっているつもりなんだろう?

北朝鮮があるから核の傘」という巷間いわれる理屈は、ちっとも本気には思えない。第二次大戦参戦直前の日本どころではない追い込まれようで自国民どころか軍人さえ食わせることもできない北朝鮮が、「いちかバチか」で戦争を始められるとでも、本気で思ってるのだろうか? 「北の核」なんて実態はどれだけ使い物になるのかも怪しいもんだし、テキは外交カードで使ってるだけだし、そこで「アメリカに守ってもらう」なんてまずあり得ないに決まってるじゃないか。そのアメリカだってこれからまた新たに戦争を始められる状態にはないんだし。

     旧・柏原村出身 鈴木千枝氏、鈴木久彌氏 親子

「万が一の備え」と言うのは一見もっともらしく響くし、火災保険くらいは入る人は多いし、誰でも入れる健康保険は安定した社会の基礎になるだろう(って、それもないのがアメリカ合衆国なのだが)。だがだからって、万が一の備えにしても額があまりに多過ぎるだけでなく(家計が火の車なのに火災保険で年額10万も払う人がいるかっつーの、みたいな話)、犠牲があまりに大き過ぎる一方で、天災や病気ならともかく北朝鮮の「万が一」って、人間のやることで政治的・外交的にいくらでも防ぎよう、というか交渉のしようがある。日本政府は結局なにもやらないけれど。

冷戦中は旧ソ連、その安全保障体制をほとんど変えないままに今度は北朝鮮を仮想敵にしながら、日本政府や日本の政治関係者がいちばん恐れているのは実はアメリカ合衆国で、アメリカが怖いから、たとえば池子のような日本のなかでも有数の恵まれた土地を、アメリカ様に献上してるだけなんじゃないか? 弥生時代から綿々と日本人の生活が刻印された場所、東日本で最大の弥生時代の遺跡が発見された場所が池子であり、山を背に南に面し、南の海からの穏やかな風に恵まれたこの場所のことを、旧柏原村で生まれた鈴木久彌氏(『フェンス』出演者の一人)は、「いいところでしたよ。桃源郷のような場所」と形容していた。

     旧・池子村出身 岸田恵治 氏、林清明

     旧・池子村出身 相川キサ

もっとも、『フェンス』それ自体はこのことにムカついているような映画ではない。旧池子村や旧柏原村の人々と、彼らがかつて生活していた風景の名残を前にして、映画としてやることとして、もっと大事なことがあるように思えてならなかったから、直接的な政治は必然的に後退していくことになった。

以下、監督ステートメント。

作った人間としては、これを在日米軍をめぐる政治的な映画としては見てもらいたくない。この二部作は失われてもはや見ることのできない“ニッポンのふるさと”をめぐる、記憶することと、見られないことについてのものであり、僕自身が池子と直接関係のない人間であるにも関わらず、自分の極めてパーソナルな思いが、我々が見せるものと見せないもののすべてに、滲み出ていればいいと思う。

藤原敏史、2009年8月




As the filmmaker, I personally don’t want this to be seen as a political film about the US military presence in Japan. This diptych is about the Japanese idea of home which can no longer be seen, about the inability of seeing, and about memories. And though I had no personal connection to Ikego before making this, I hope that my deep personal feelings can be somewhat felt in all of what we show and what we don't.

Toshi Fujiwara, Aug. 2009


        旧・池子村出身 岸田恵治

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