最新作『無人地帯 No Man's Zone』(2012)
〜福島第一原発事故、失われゆく風景、そこに生きて来た人々〜
第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品作品

2/09/2013

新流行語?「レーダー照射」ってなに?

本ブログ前項で触れたように、ついにオバマ政権が痺れを切らして、ルース大使にNHKを通して安倍晋三政権の外交への不満をぶちまけさせ、これで少しはまともに日本外交が回復する方向に話が進むかと思えば…

…安倍政権はもはや破れかぶれの開き直りなのか、この期に及んでまた必死の抵抗…というか駄々をこね始めている。

日中領海の境界域で、中国海軍のフリゲート艦が、大砲の照準用の火器管制
レーダーを自衛艦に向けた、というので大騒ぎを始めたのだ。

安倍氏自身が「国際社会にこういう事実があるということを知らしめる必要がある」とか言って事実確認を防衛大臣に命じて報告を上げさせて公表…って。



朝日新聞の詳報はこちら http://digital.asahi.com/articles/TKY201302050539.html?ref=comkiji_txt_end_kjid_TKY201302050539

安倍氏の言う「国際社会」は要するにアメリカを指しているわけで、こんなに中国はひどいのだから味方して下さい、というつもりなのだろう。


だが、北朝鮮の核実験計画で米中がそれどころではなく、対応に向けた協議の真っ最中である時に、さすがは前回に首相だったときに「空気が読めない」とさんざん揶揄されて「KY」が流行語になった安倍さんだ。


同盟国であるわけで、アメリカも形だけは中国に確認と説明は求めたわけだが、当然ながら東シナ海に展開する艦船の照準用レーダーの運用までわざわざ管理してるはずもない中国政府が、報告を出させるまでの間の、時間稼ぎにしかならない。


中国の外務当局の対応も、おそろしく醒めている。「我々の担当ではないから国防省に訊いてくれ」、むろん軍の通常の訓練やパトロール業務に、外務省がわざわざ関わっているはずもない。

で、中国が調査報告の上で回答を出せば、中国からみれば一方的に日本側が引き起こした日中対立の結果なのだからもっと厳しい言い方で対抗することも出来る(そもそも対立を煽ったのは日本なのだから、海軍がその程度の警戒態勢を敷いていても当然である、と言うことも出来た)状況が、呆気ない余裕の一言で済まされてしまった。



日本経済新聞の続報 s.nikkei.com/WxMaEF
【北京=島田学】中国国防省は8日、中国海軍艦船が海上自衛隊の護衛艦に火器管制レーダーを照射した問題について、日本政府が発表した事実関係を否定する談話を発表した。談話では「使用したのは通常の警戒用管制レーダーであって(射撃するための)火器管制レーダーではない」と主張した。

またも外交的には、中国が余裕の圧勝である。


元々、日本側は自衛隊が検知したレーダー波を元に推測することしか出来ない立場なわけで、こう言われてしまっては、どう反論しようが客観的に立証しようがない。 


実は火器管制レーダーだったとしても(実際、そうだったとしてもなんの不思議もない、と僕も思うけど)、確認のしようがないのだからしょうがない。


安倍政権の子供じみた、鬼の首をとったようなはしゃぎっぷりに対して、中国の大人のしたたかな外交が際立つ、としか言いようがない。


自国に対立の意志もなく、その行動もとっていないことをしっかりアピールしつつ、日本と対立するのではなく堂々と小馬鹿にしてしまう。


客観的には中国の冷静さが際立ち、日本だけは立場がますますなくなって、かえって頭に来ることまで計算した、強烈な大人の意地悪さだ。

とはいえ、これも安倍晋三政権の自業自得、自爆行為に過ぎないわけで。


日経の伝えるところによれば、外務省の対応はもう情けない限りである。外務大臣の閣議後会見によれば、

日本側は「慎重かつ詳細な分析を行った結果、火器管制レーダー照射の疑いがあると確信するに至った」と反論…
…したのだそうである。

疑いがあると確信」って…これも新流行語にしたいほどの馬鹿馬鹿しさ。確信したのか疑いを持っただけなのか、お願いです、はっきりして下さい(笑)。


だいたい第一報からして、よくもまあ新聞社もこんな間抜けな記事を書くものだと呆れる限りの、矛盾だらけの記事だ。


安倍氏の「国際社会に知らしめる」も、「いやそれは中国に抗議すると言わなきゃ駄目でしょう」と、これだけで大いに突っ込みどころだ

防衛省幹部によれば「レーダー照射は過去にもあったが、今回初めて分析して証拠固めをした」のだそうである。


つまり、官邸はすわ「中国の挑発だ」とはしゃいでいるが、海上自衛隊はこの程度のこと気にもせず、いわんや一触即発の危機を煽る戦争挑発だと思ったわけでもなんでもなく、せいぜいが「よくあることだ」で事実上放置していたような話に過ぎないことを、防衛省が告白しているわけだ。

なのに、新聞社が防衛当局と官邸のあいだ、実務を担う官僚と閣僚のあいだにある、あからさまな矛盾についても、まったく認識しないで報道しているに過ぎない。


もちろん、実を言えば最初から防衛省や海自が本気で気にするはずもない話し、最初からアメリカや中国も、日本がこれを言い出せば「さて困ったねぇ、この駄々っ子をどうなだめようか」と思うような話でしかない。


これは極めて言いにくい、おおっぴらにはどこの国の外交当局も軍も言ってはいけないことなのだが、銃や大砲などの照準をなにかに合せるなんて、(他国の艦船とか民間人とか相手では決して褒められた話ではないのは当然にせよ)、どこの国の軍隊だって訓練の一貫のちょっとした遊びとして、よくやっちゃってる程度のことだ


もちろんおおっぴらにやってしまえば、相手にはとんでもなく失礼な話であり、犯罪性や違法性があるとは言い切れないものの、決して威張れたもんじゃない。そのレベルでは、日本は確かに中国の失点をついてはいる。


とはいえ実際に軍隊を運用している側からすれば、「なにを下らないへ理屈を。さて困ったね、この駄々っ子をどうなだめようか」程度の話でしかない、まったくの幼児のへ理屈なのだ。

逆になにか標的を決めなければ、訓練にすらならないわけだし、訓練を必要とする軍隊が動かす仮想標的では訓練としてあまり役に立たない、こちら側の意志と無関係に動く標的でなければ、およそ実戦で使える能力は身に付かない。


これくらいのこと、子供でも知恵が少しついて、ちょっとリアリティの感覚があれば分かる話だろうに、今の日本の内閣はオタクの引きこもりの幻想世界の戦争ごっこの世界に生きているのだろうか?

外を駆け回る、身体を使った戦争ごっこですらない、プラモデルとコンピューターで空想を逞しくしただけの、リアリティの感覚がなにもない、オタクな引きこもりの戦争ごっこ。


実際、在日米軍なんて、日本の一般市民相手に照準を合わせることくらいは、しょっちゅうやっているのである。沖縄駐留の海兵隊の野戦訓練施設で、実弾も使用していたためにさすがに問題になったことすらある。


また2001年以降、最高度のテロ警戒態勢が続くのが今の米軍基地で、ゲートの警備兵はちょっとでも不信があればまず銃の照準を当ててから、疑念を持った相手(ふつう一般市民)に質問に行くようマニュアル化されている…


(…と僕なぞは、自分自身に狙いが定められていたことを、逗子池子の米軍住宅警備の憲兵に、そういう規則になってることを含めて、教わってますよ。もちろん僕たち自身が『フェンス』の撮影中に、その米軍に狙いを定められていたからです)

もちろん、そこで発砲してしまえば大問題だ。

同盟国とはいえ基地の敷地外は日本の施政権内であり、そこで武力行動を米軍が起こすことは、明確な国際法違反の侵略行為である。米軍の内規では撮影禁止のゲートでさえ、外、つまり日本側から撮る限りには、任意で撮影映像の提出は求められるが、あくまで任意で強制力はない。


(ちなみに米国内ではまったく別。提出を拒めば逮捕も出来る。米国の施政権内でその国の軍隊の行動だから、一定の行政権、逮捕権は持っているので。それでも言論表現の自由を盾に回避は出来なくはないし、現にこれも体験済みですが)


さらにちなみに、この辺りの国際法の基本中の基本すら分かっていないのが安倍晋三氏で、先日のアルジェリアでの武装集団による人質事件を受けて、「自衛隊の強化」「国防軍」という持論を得意げに語っていた。 
安倍氏にひたすら迎合するマスコミが、その方向で自衛隊強化に世論が賛成かどうかを調べ出す始末である。 
まったく馬鹿げた、そもそも論ずる必要もない、あり得ない話なのだが。 
アルジェリアならアルジェリアで日本人がテロの危機にさらされても、自衛隊を派遣して行動させたりしたらそれだけでアルジェリア政府への重大な侮辱であり、法的なテクニカルな議論では侵略行為に該当する。  
出来るわけもない、あまりに非常識な戯れ言なのだが、安倍氏だけでなく政治マスコミまで、どこまで幼稚なのだろう? 
結局、落としどころは、在外公館の駐留武官の数を増やすこと。防衛省が喜び、外務省と結びつきを強め、さらに霞ヶ関の利得と権限を増やして政権の求心力を低下させるだけの話で終わってしまった。 
霞ヶ関にとって、安倍晋三は手玉にとり易い操り人形でしかない



銃や大砲の狙いを定める、照準を合わせるのは、あきらかに失礼な話だし感情論的には「ふざけんな」ではあり、法的な問題の疑念も払拭しきれないところではあるものの、しかし法的・論理的に絶対にやめろとまでは言えない話だ。


なにしろ照準を合わせただけなら、実害はなにもない。


それを照準を合わせたことと、発砲行為を、あたかも同じことであるかのように興奮しているのが今の日本政府である。同じなわけがなかろうに。


「レーダー照射」などと繰り返すに至っては、まるでなにか殺人光線でも浴びせられたのかと言わんばかりの雰囲気すら演出したいようだが、『ウルトラマン』じゃないんだから、とかえって呆れてしまう。

戦争をやりたい、やりたい、と思ってたのが、それがリアリティの問題になったとたん、怖くなって興奮状態で冷静な判断力皆無になってしまったのか?


それとも議論が出来ない幼稚さ丸出しに、アメリカ相手に「中国ってこんなにひどいんです」と言える材料を、なんでもいいから探していて、前後の脈絡もすっ飛ばしてそこに飛びついただけなのか?


中国は完璧な大人の対応で、対立を回避する余裕すら見せつけているが、ここは「日本がそもそも挑発したのだ。本来我が国の領土領海であるはずの場所で、我が国の漁民を不当に拘束し、日本国の法律まで破って自由を奪い続けたのも日本ではないか」と猛然と反論することも出来た状況であることを、安倍政権はまったく理解すらしていない。


これだって菅直人と前原のミスなのだから、「民主党政権の外交の稚拙さ」を責め立てれば、むしろ自民党の選挙対策として有効だった話でもあるのに。


だいたい、中国が尖閣諸島の領有権を公式に主張しているのは事実ながら、だからこそ中国側から見れば沿岸警備隊の派遣も「我が国の領海」なのだから完全に合法で領海侵犯には当らない行為になる(日本から見れば領海侵犯になる、という一方だけの理屈だ)だけでなく、本気で軍の艦船を派遣して軍事行動なら、今回の「レーダー照射」の延長で攻撃などは、あり得ない話に最初から決まっている。

そんな基本的なことすら、安倍晋三は分かっていないし、政治マスコミも分かっていないのだろうか?


現代の国際秩序では、いきなり手続きも踏まずに軍を派遣して強硬的に尖閣諸島を占拠すれば、たとえ中国の領有主張それ自体が正当なものであっても、その行為自体は国際法違反であり、いかに中国が常任理事国でも安保理で中国非難の激しい議論が行われるのは確実であり、拒否権を発動したところで国際社会での信用失墜は避けられない。


軍を動かす気なら、宣戦布告等を経た完全に国際法的に正当化される手続きを踏んで以外では、やるはずもない話だ。


中国が本気で尖閣諸島を狙う(中国側の立場からすれば「取り戻す」)つもりなら、まず合法的に、非武装手段で、外交的に日本の外堀を埋めて行くのが当たり前だ。しかもそのための材料を安倍晋三の政権がどんどん提供し、同盟国である米国の現政権がこの日本の政権を嫌っているほどなのだから。

批判されるリスクの少ない手法をまずとるのが国際政治の王道だし(国家のメンツと威信がかかっているので、極端なまでに「タテマエ」、その行為の正当性が重視される世界だ)、したたかな中国外交はそこをちゃんと踏まえている。


逆に日本側を省みて言えば、昨年夏以降の、野田政権による「尖閣諸島国有化」の愚かしい大パフォーマンスで日本が国際世論でどんどん孤立化しても、それはそうした領土問題を悪化させる行為が批判されているだけで、尖閣諸島の領有権それ自体について日本と中国と台湾のどこに正当性があるのかとは、まったく別次元の関係のない話である。


米国に至ってはそれをさんざん繰り返している。「尖閣諸島は安保の適用範囲ではある」と言うのは、その意味でしかない

ところがこれが、安倍晋三には分かっていないし、むしろ積極的に混同して、あたかも自ら尖閣諸島の領有権を失いたいのか、まるで日中戦争を煽りたいかのように見られてしまう(いや本当にその気なのかも知れないけど)。


こんなことすらも、まともに議論や報道できないのが今の日本の、恐ろしく能力の低下した政権与党や、マスコミなのである。


まことにお寒い限りではないか。


そもそも、昨年来の尖閣諸島を巡る対立は、日本では当時都知事の石原慎太郎が「都が購入する」とぶち上げたことがきっかけだと日本人は思いがちだが、これも日本国内しか見ていない引きこもりの論理でしかない。


実際には、中国の外交当局はこの件で記者団から質問が出ても、「それは日本国内の商取引に過ぎず、我が国は関知しない」と明言していた。


問題はあくまで国有化であり、その話に話が発展するまでは、中国政府はなにも動いていない。


派手な「都が買います」パフォーマンスをぶち上げた石原慎太郎は、その点では天才的ポピュリストの、狡猾に計算された大胆さのポーズだったのかも知れない、とすら思えて来る。


どうも彼は、都の購入だけでは中国は動かない、無視するだけだと見抜いていたのではないか。その程度には中国に探りを入れて、踏まえた上でのパフォーマンス?


また慎太郎の構想では、都が購入したあとは積極的に、民生向けに利用する(かつてあった鰹節工場の復活など)というだけで、これだけなら中国政府はやはり「日本国内における経済活動の範疇であり関知しないという態度を貫けたことになる。

ルース駐日大使がNHK相手に繰り返し「アメリカの考える東アジアの安定とは、米中日の緊密な友好と連携に基づく」と語ったことを、実は現在の中国政府も共有していることは言うまでもない。

両国とも自国の国益を最優先した場合、いや日本の国益も含めて、安定した政治外交安全保障で、経済が順調で相互に恩恵を分かち合うことが、もちろんいちばん重要なのだ。


民生利用で漁業などに活用することから地道に、こつこつ始めればよかったのだとしたら、野田や、今では安倍が言っているような、自衛隊の出張駐屯地を作るなどとなると、まったく別の話だったわけだ。


安倍や野田が言っているようなキナ臭い敵意も含んだ国有化では、中国側はさすがに静観はできない。


外交・安全保障の基本が分かってれば踏むはずもない地雷を、野田は踏んでしまっていたのだし、だからこそアメリカからの圧力もあって政権交代したのだから、「あれは前政権の誤りだ」と批判して方針転換すればいいはずなのに、安倍はまるで野田と競うかのように、同じ地雷を一生懸命踏み続けている。


逆に言えば、日本が本当に尖閣諸島の領有に興味関心があり、この領土を日本領として守りたいのなら、こんな「国有化」騒ぎを起こす必要なぞ、最初からなかったのである。


むしろ今まで地主と結んでいた賃借契約を解消してもいいし、石垣島の漁師に尖閣諸島周辺での漁業をちゃんと認てもいい。


慎太郎が主張していたのも、漁業等の民生利用だった。


むしろ野田が始めて安倍が継承しているこの尖閣諸島をめぐる対中挑発こそ、日本の立場を危うくしている。相手国にアピールの機会を与え、尖閣諸島の日本領有を危うくするだけだ

安倍晋三を始めとする今の自民党政権は、戦争を知らない。慎太郎のような実は分かっている戦前生まれではないというだけでなく、戦争を知らないから戦争ごっこに憧れる子供のようだ


戦争と平和の実際も知らず、戦争の怖さもリスクも知らないどころか、軍事や外交の基本も分からず、ただ「戦争ができない憲法」を憎悪して変えたがる

これこそ文字通りの平和ボケではないか。


言うまでもないことだが、これはとても危険だ。