我々は今、『No Man's Zone 無人地帯』という題名で、福島県の被災地、とくに「警戒区域」「計画避難区域」といった政府の決定で人が住めないことにされてしまった、無人の場とされてしまった場所についての、ドキュメンタリーを製作しています。
「原発事故が大変だ」という映画をいまさら作る気はありません。なにが大変なのかといえば、それはみなさんが失われてしまったものの大きさでしか、計ることはできません。そこを伝えようとする映画を、目指しています。
4月中下旬の、唐突に「警戒区域」が発令される直前には双葉町、大熊町、浪江町、富岡町、楢葉町と広野町の、当時はまだ「避難地域」「20Km圏内」とされていた土地を撮影し、5月下旬には名目上は「計画避難」が完了する直前の飯舘村を撮影して来ました。
このドキュメンタリーのひとつのきっかけは、テレビなどで見ることが「あまりにおかしいだろう」ということでした。たとえば20km圏内は「無法地帯」といった形容で、「牛が野生化している」「とにかく危険である」という文脈を作り上げてみせられています。案の定、牛はいわば放牧の状態であるだけ、こちらが注意さえしていれば、驚いたり怯えて逃げ出すこともありません。
福島県浜通り・大熊町の放牧状態の牛
ほとんどの場合、取材に入る人たち自身が防護服に防塵マスクで身を固め、ガイガーカウンターを持ち、なにを撮りどんな話を聞くのかよりも、放射線の値が気になってしかたがないようです。ところがそこで出て来る数値が、案外たいしたことがなかったりする、一年いたって本当に危ないとはとても言えない、まして数日取材するだけで気にする必要はまったくない数値だったりするのですが。
防護服なんて着ても身動きが制限されるだけだし、ガイガーカウンターの数値よりももっと見なければならないものがあるからこそ撮影に行くのです。我々はそんなものはどちらも持っていきませんでした。特別な装備といえば、地震のあとすぐ避難があったのだから道路は痛んだままだろう、そこで四輪駆動の自動車を準備しただけです。
ガイガーカウンターの数値よりももっと見なければならないと思っていたものは、皆さんの故郷である場所に入ったとたんに、すぐ見つかりました。
4月の20日前後で、ちょうど桜の季節です。淡い新緑の芽吹く山々の、その森や林のそばにすっと一本桜が植えられていたりする、その風景はシンプルで、あまりに美しいものでした。
一方で、とくに海岸に近い場所に行けば、そこは津波で激しく破壊されていました。震災から1ヶ月以上経ってやっと県警の捜索が入っている。富岡の駅では、線路を挟んでこちら側は瓦礫と傾いた家が散乱しているのが、駅の向こう側にはほとんどなにも残っていない。
双葉町では、津波に飲まれたかつて田んぼだったであろうところに、よく見れば瓦礫が点在していることでかろうじて、そこに家があったことが分かる。それでも海辺の松の防風林だけは見える。
浪江町の請戸では、橋から海までが一気に見渡せてしまい、住宅の瓦礫のなかに漁船や浮きが転がっている。捜索が入った形跡もほとんどありません。
福島第一原発より5Kmほどの地点、浪江町 請戸港の津波被害
4月21日に撮影 ©2011, 羅針盤映画
それは哀しくも不思議な美しさをもった風景でした。 美しい田園が残っている場所でも、そこに人はいません。みなさんが今まで築き上げて来た生活の痕跡はあっても、それだけでは皆さんが先祖代々生きて来た歴史は、そこはかと感じることしか出来ません。
そこで皆さんにお願いがあります。辛い日々が続く中大変に恐縮ですし、かつてを思い出している余裕もないかも知れませんが、今までこの土地で生きてこられた皆さんの生活の歴史を、教えて頂けないでしょうか?
今の皆さんのお立場が大変に複雑なことも分かっているつもりです。 ですから映画に出演して頂ければむろんありがたいものの、差し支えがあるなら声だけでも十分です。あるいはお話だけでもかまいません。そこから文章を起こして、朗読するだけでも映画に出来るのですから。
皆さんご自身のお話だけではありません。村の昔話などもたくさんあることでしょう。
皆さんが生きてこられた土地には、神社やお寺だけでなく、道ばたのお地蔵さんや道祖神、小さな祠などをずいぶんと見かけました。恐らくそこにはお祭りがあり、歌や踊りやお囃子もあったことでしょう。そうした歌や音楽だけでも、記録できるものなら記録させて頂ければ幸いです。
もしお話をうかがえるようでしたら、ぜひご連絡ください。
また取材に応じて頂けるかどうかに関わらず、我々がいわゆる20Km圏内で撮った風景をご覧になりたい方は、お気軽にお問い合わせください。
記録映画『No Man’s Zone』
監督 藤原敏史
製作 ヴァレリー=アンヌ・クリステン
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