最新作『無人地帯 No Man's Zone』(2012)
〜福島第一原発事故、失われゆく風景、そこに生きて来た人々〜
第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品作品
DVD 2月20日より発売!amazon.co.jp 配信はこちら

1/01/2011

あけまして・おめでとう・ございます

今年もよろしくお願い致します。恒例の年賀メール転載です。昨年ぶんはこちら。


謹しんで新年のお喜びを申し上げます、

旧年中お世話になりました皆様には、改めて御礼申し上げますと共に、残念ながらお会いする機会のなかった皆様とは、今年は是非お会いできますこと、またこの一年が皆様にとってよい年となりますように、心よりお祈り申し上げます。

…と申し上げたところで、この新しい年が昨年よりは少しでもいい年になることを願わずにはいられない2010年でした。

一昨年の政権交代でやっと未来の日本に向けての変化が始まるかと思いきや、市民運動出身のはずの総理大臣が戦後もっとも極右的で差別的、かつ官僚を中心とする既存勢力におもねる政治に陥った【裏切り】の年であったわけですから。

その総理大臣がまだ財務大臣/副総理であった時点から、「友愛」を掲げた前首相がまず【裏切られ】、普天間基地の問題では日本本土が沖縄を【裏切り】、政権交代が既存の体制を逆に強化する結果になり、日本の将来そのものが【裏切られた】ような、まさに【裏切り】の一年であったことは今さら申し上げるまでもないでしょう。

今は亡き黒木和雄監督に、お会いする度に「今の日本は私たちが少年だったころの日本にどんどん似て来ていますから、気をつけて下さい」と言われたことが思い出されます。

今や中国や北朝鮮と戦争をしたくて仕方がない、相手国の立場も考えもまったく考慮せず、ただ一方的なヒステリーだけが盛り上がるこの国の世論というものにも、不安を感じずにはいられない一年でした。挙げ句に国内では露骨な人種差別を、それも在日朝鮮人の高校生たちを犠牲にすることを政府がやり始め、いったい全体この国はどうなってしまうのか…。

当方の活動の方では、その政権交代の直後の山形国際ドキュメンタリー映画祭での日本初上映の際、大津幸四郎撮影監督が「この映画は新しくできた鳩山政権にプレゼントしたい」と言い放ったドキュメンタリーフェンス 第一部 失楽園 第二部 断絶された地層(2008年)は、残念ながら普天間問題が最悪の結果になる前に公開することが出来ず、国内では東京での山形回顧上映と、愛知芸術文化センターで上映されただけに留まっております。

http://toshifujiwara.blogspot.com/2010/10/1900.html

また『フェンス』に出演された逗子市の郷土史家・篠田健三さんが7月にご逝去されましたことは、この作品を大変に高く評価して下さった氏の生前に一般公開できなかったことも含め、非常に残念でならないことでした。

『フェンス 第二部 断絶された地層』より、篠田健三氏

http://toshifujiwara.blogspot.com/2010/11/blog-post_24.html

前編後編80分ずつの大長編でなかなか公開が難しいとはいえ、この時代に「日本という国/ふるさとを守る」ことの意味を真剣に考えるための材料として、見せなければならないはずの作品を未だにごく一部の方にしかご覧頂けていないこと、大変に心苦しく思っております。

今年中にはより多くの皆様にご覧頂けるようにするつもりであり、その際にはまたよろしくお願い致します。

11月〜12月にかけて、東京フィルメックス映画祭と東京日仏学院で開催されたイスラエル映画の鬼才アモス・ギタイ監督の特集上映では、ギタイ監督との長年の(もう13年だか14年になる)友人としてお手伝いさせて頂きました。14本のギタイ作品に加えて、僕が演出したメインキング・ドキュメンタリーも二本、日仏学院で上映して頂きました。もうかれこれ8年前のデビュー作を久々に自分でも再見致した次第です。

    
インディペンデンス アモス・ギタイの映画「ケドマ」をめぐって』(2002)

アモス・ギタイ特集「越えて行く映画」は引き続き、年明けにアテネ・フランセ文化センターで、今度はギタイ監督のドキュメンタリー21本を連続上映することになります。

Amos Gitai: L'ESPRIT DE L'EXIL アモス・ギタイ特集 越えて行く映画 第三部:ドキュメンタリー/インスタレーション


こちらの上映もぜひよろしくお願い致します。

2009年の、まだ政権交代の前に撮影が始まった、大阪での即興フィクション映画は、題名を『ほんの少しだけでも愛を For a Little Bit of Love Just for this Little Instance』と決め、昨年10月にやっとすべての撮影を無事終了することができました。

振り返れば政権交代を予想する中でその日本の変化の瞬間を間接的に捉えよう、「友愛」の政権が生まれる時代を撮ろうと思わないではなかった企画は、結果として【裏切り】の時代を撮る映画になってしまったわけです。

あるいは「自分たちからはなにも変えようとしない、なにもしようとしない人々の国」を撮った映画であるのかも知れず、実のところ一昨年の撮影分からすでにそういうものしか写っていないことに編集中に気付いたのは、かなり愕然とすることであり、また自分の甘さと楽観性を反省せざるを得ない、苦しい一年間でもありました。

現政権がその象徴であるように、ただ批判を恐れ言い訳をし、内輪の上下関係における保身にしか興味が持てない国のなかで、いかに普通の若者でさえ追いつめられているのか。「正直さ」や「誠実さ」がどんどん意味を持たなくなる国になぜなって行ってしまうのか。

一言でいえば、「不正直さの国」、美辞麗句を一皮むけば保身と言い訳しかなく、もはや停滞しかないのかも知れない国。

その意味では、現政権はこの時代にまことふさわしい「代表」であるのかも知れません。

我々の映画では、その「不正直さ」の起源を探ることが、日本人が実は自分達の歴史を知らないという、『フェンス』にも共通する問題意識に行き着くこととなりました。

『フェンス』は戦前の農耕社会と戦後の米軍支配の下での歴史の地下水脈が浮上する映画でしたが、今回はもっと過去へと日本の「知られざる歴史」とくにその精神史を遡り、歴史意識を失った現代の日本にその残滓を見いだそうとすることでした。

それは同時に、関西、とくに大阪で撮っている以上やはり避けるわけにはいかない差蔑の問題、奇しくも現政権の差蔑的な政策のターゲットになってしまっている在日コリアンのこと、遊郭などで働く女性への差蔑、釜ヶ崎のかつての日雇い労働者の町、そしていわゆる「被差別部落民」とされた人たちの問題もまた、映画の主題に深く関わることになりました。

『ほんの少しだけでも愛を』(編集中)ラフカットより

《明治以前の日本の精神文化の私的考察》

それはまた、我々の仕事である演ずること、物語を語ることが、かつて「河原もの」とも呼ばれながらもただ蔑視されたわけではなく、畏怖の対象でもありスーパースターであり「カミ」でもあった人々が担う、祭礼的な職業のひとつでもあったことと、つながる意識でもあることは、言うまでもありません。



僕自身の映画作りの大きな動機のひとつは、「日本人とは何者であるのか」の探求でもあるわけで、その意味でこの映画でこうした主題を扱うことは個人的にも重要だったと今となっては言えるわけですが、とはいえ政権交代の【裏切り】と並行してこの映画を作る中で様々な【裏切り】に直面しなければならなかったことも、また辛く苦しいことではありました。



まず即興劇映画のなかでそうした主題を取り上げることに賛成するようでありながら、「差蔑がいけない」と言われているから反対できなかっただけである人がほとんどだったというショック。

またそれ以上に、わざわざ実名をあげる気はないものの、当初は非常に協力的であってくれた、さる大阪の映画関係の人物が、どうやら「そんなところで撮影するのなら大阪では絶対に上映させない」と言ったらしく、まさかそんなことはあるまいと本人に確認したところ、なんとただヒステリーを起こしただけで否定すらしなかったのは、本人が表向きは標榜している「市民派・良心的な社会派」かつ「映画を愛する」、「ヒューマニズムを信じる」かのようなスタンスからすれば、まったく信じがたい【裏切り】であったことは、率直に申し上げなければなりません。

一方で、そのような四面楚歌にも近い状況の中で、それでも最後まで出演を続け、また即興映画で台本もないわけですから正直な自分達の気持ちから物語そのものを紡ぎ出し続け、清々しいまでの率直さで「人としてもっとも大切なこと」を映画のシーンのなかに刻印してくれた出演者/参加者/共謀者たちには、心からの敬意と信頼を、この場を借りて申し上げさせて頂く次第です。



即興フィクション映画『ほんの少しだけでも愛を』は、今年の春頃の完成を目標として、現在編集中です。

またこの撮影と編集では、もう10年前の『愛のコリーダ』完全版公開の際にお会いでき、大変に楽しく、時には厳しく教えを賜った大島渚監督の強い影響を再確認することにもなったわけですが(実際、極めて大島的な主題性を持った映画にもなりつつあり)、その大島渚監督の未撮影の脚本の映画化にも、昨年暮れから動き始めております。

…といったところで新年早々、長々とした近況のご報告ととりとめもない新年の雑感となってしまいましたが、本年もどうぞよろしくお願い致します。

2011年元旦

藤原敏史 拝

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